fc2ブログ

吉村 昭 「破船」

吉村昭 破船

いや~・・・これは凄い小説を読んでしまった・・・

あまりに過酷で凄惨で悲しい物語です。

フィクションではありますが、

あまりにもリアリティがあって吉村昭さんの

筆力の偉大さを実感しました。

・・・・・・・・・・・・・

生きて行く為に村一丸となって

難破した船から食物他板切れ一枚全てを

奪う風習がある貧しい漁村・・・

・・・・・・・・・・・

穀物がほとんど採れず

漁獲も惨めな程少ない・・・

塩を作り隣村へ売りに行く。

隣村まで3日もかかる道程を

肩から血が滲む程の重い塩を運ぶ。

・・・・・・・・・・・・

9歳~12歳までの伊作の目を通して見る

過酷に生きる日々を描いています。

・・・・・・・・・・・

父親は3年の年季奉公へ行く。

遺された母親と弟妹3人と伊作。

わずか9歳にしていっぱしの大人と同じ仕事をする。

・・・・・・・・・・・

生きるか死ぬかの瀬戸際の日々を

淡々と描いていて尚更怖さを感じました。

・・・・・・・・・・・

「船には傷を負った男をふくめて四人いたが、

一人残らず打ち殺した。

かれら一人でも生かしておけば、

災いが村にふりかかる。

打ち殺すことは

ご先祖様がおきめになったことで、

それが今でもつづけられている。

村のしきたりは、守らねばならぬ。」

・・・・・・・・・・・・

難破した船が村に財をもたらす。

綿密で極秘の行いは決して他所に

漏れてはいけない・・・

・・・・・・・・・・・

後半で「お舟様」から奪った食物・穀物を得、

何とか食べものに困らない一時期の後に

悲惨な事件が起こります・・・

・・・・・・・・・・・

これは短い感想では語れない

奥深く惹きこまれる物語でした。

しかし・・・

辛すぎる・・・




いつもありがとうございます

スポンサーサイト



吉村 昭 「見えない橋」

005_20180310163834a46.jpg
吉村昭さん。
1927年東京生まれ。
学習院大学中退。
太宰治賞、菊池寛賞、
吉川英治文学賞、
読売文学賞、
毎日芸術賞、
大沸次郎賞、他受賞有り。
2006年79歳で死去。
…………
それぞれの生と死をテーマにした7編。

①見えない橋
出所した高齢の受刑者の最期を保護司の視点から描いています。

②「都会」
町内の公園に住み着いた孤独なホームレスの死。

③「漁火」
漁村の消防団が遺族に頼まれて投身自殺した息子を捜索する話。

④「消えた町」
小学校の同級生が転校し後に予科練に入り、戦後自殺する…

⑤「夜光虫」
女性に巧みに近づいては詐欺を働き
服役していた男が出所し
図書館主催の読書感想文に応募、
入選した事で読書会に参加するのだが…

⑥「時間」
戦争によって変死した少佐と未亡人との交流…

⑦「夜の道」
この作品は吉村さん25歳の時に執筆した私小説。
母親の壮絶な闘病とその後の死。
重なるように自身も発病し、
療養している最中に母親の死を知らされる…

……………

吉村さんの文章の一節一節には風景が有り、

読後しみじみと心に残ります。素晴らしい作家さん。

今回の作品の中では

孤独なホームレスの死を描いた「都会」が

何とも寂寥感と深い悲しみが刻まれました。

最後の母親の死を描いた「夜の道」は

素晴らしい文章に感動しました。



いつもありがとうございます

吉村 昭 「帽子」

FullSizeRender (7)

癌で死期が迫った妻の為に
帽子を買い続ける夫。
「お嫁さんをもらっても、
帽子は買ってやらないでね」

短い物語です。
自宅で最後を看取る為
夫は妻を献身的に
見守ります。
妻の願いは素敵な帽子を
かぶりたいという事。

女性専門の帽子店で
気恥ずかしさを気にせず
妻の為に帽子を買う夫。
ベレー、ターバン、
キャスケット、クロッシェ、
キャップリン…

妻はとても喜び、
かぶりますが、
決して鏡を見ません。
「病院の鏡をみたわ。
お化けみたいになっているのを
知っているのよ。
もうみたくない」

妻が言います。
「死ぬ前にドライブさせてよ」

妻に帽子をかぶらせ
ドライブに向かった先は
危篤となり、
意識が薄れていく中での
病院へ向う道でした…

短い物語ですが、
読後静かな深い悲しみが
しみじみと…
長く心に残る物語でした。



いつもありがとうございます

吉村 昭 「仮釈放」

001_20171010200215ba0.jpg
菊谷50歳。

妻の浮気現場にて包丁で刺殺。

相手の男も負傷させ、右半身が不自由になる。

逆上した菊谷は男の自宅に放火。

男の母親が焼死。

判決は無期懲役。

模範囚となり16年後に仮釈放となり、

保護観察を受けながらも晴れて自由の身に…。

ここまでなら良くある話。

この物語では、

仮釈放になってからの

菊谷の日々が細やかに描かれています。

常に誰かに監視されているような錯覚に怯え、

世間とのズレに戸惑い、

自分の過去を隠しながらの緊張した生活。

後に保護司の勧めにより再婚。

菊谷の過去を承知で妻となった女との夫婦生活は、

ひと時菊谷に心からの癒しを与えてくれた。

しかし…

菊谷には消すことの出来ない凄惨な過去が

夢の中まで喰らいついては離れない…

ある日、妻となった女が

踏み込んではいけない

菊谷の闇の領域に入り込んで来た時、

菊谷の忍耐は限界を超える…

罪を犯す。

罪を償う。

不自由に身を置き、

いつか自由の身への夢を抱いていた…

しかし本当の自由ではなかった…

水上勉の「その橋まで」も同じテーマですが、

吉村昭さんも水上勉さんも

罪を犯した者への描き方と

受け入れない世間との関係性を描いて、

読み手に問いかけるという

重いテーマの物語でした…。



いつもありがとうございます
プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

カレンダー
05 | 2023/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
日記
3084位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
1266位
アクセスランキングを見る>>
最新コメント