西條 奈加 「隠居すごろく」

面白い!!
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老舗糸問屋の主人徳兵衛が還暦に隠居。
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余生は静かな田舎暮らしで悠々自適の予定だったが・・・
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孫の千代太が隠居家に来るようになった事から、一人が二人・二人が四人と訳ありの人々が増え始める・・・
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一人一人の家庭環境と事情に小さいながらも頭を巡らし祖父徳兵衛の力を借りて、仲間となり困難な事情を克服して行く。
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「縁」が起点となり、頑固で非情な商売人だった徳兵衛の変化と子供たちやその親達の自立を促す流れがとってもワクワクしました。
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子供たちにとっても一番の「学び」は、机の上だけではない。
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孫の千代太の可愛らしさと純粋さが時に徳兵衛を窮地に追い込みます。
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そこからの徳兵衛の本来の心根の優しさと強さが気持ち良いです。
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千代太の仲間達一人一人の個性が丁寧で目に浮かびました。
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また、徳兵衛と妻のお登勢との長年の冷めた関係も子供たちによりゆっくりゆっくり温まって行きます。
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子供たち自身が作った「商売」は、その後の子供たちの成長と発展へ続きます。
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最後、孫の千代太が大人になり、徳兵衛への思い出を語ります。
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どんなにか充実した余生であったかが伝わるじ~んとする物語でした。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「わかれ縁(えにし)」

浮気・借金・妻を金蔓としか扱わない
最低の旦那とわかれる決心をした絵乃。
夫から離縁状を貰わないと
わかれられなかった時代。
妻からわかれたい時は
公事師に依頼するしかなかった。
現代で言うところの弁護士でしょうかねぇ。
調停役。
お金も時間もかかるから
絵乃はあきらめかけていたところを
公事宿の椋郎(むくろう)に助けられる。
夫との離縁費用を公事宿で働く。
自分も離縁する為に働いているけど、
公事宿に来る客の離縁の仕事もこなす。
夫富次郎のクズぶりと
登場するそれぞれの人物のキャラクターが
はっきりと個性的に描かれている。
公事宿の女将の桐が
7回も離縁再婚を繰り返した強者。
公事宿「狸穴屋(まみあなや)」の
メンバー一人一人が魅力的。
絵乃が生き別れした母親との再会と
母親の事情が終盤で大きな役割を果たし
読後感が優しい気持ちになりました。
また一つ好きな作品が増えました(^^)
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公事宿女将である桐の元亭主の事を
娘のお奈津が語るシーンに
クスッと笑っちゃいました(^^)
お奈津 「宮本武蔵に憧れて、剣を極めるために放浪の旅に出ちまったのよ。まったく呆れて物も言えやしないわ。」
母親桐 「お奈津の父親は、苦味走ったなかなかの男前でね。上に馬鹿がつくほどに生真面目な男だったよ。その一途なところに惚れちまったんだがね。」
お奈津 「一途も度を越しちゃ、はた迷惑だわよ。」
いつもありがとうございます

西條 奈加 「婿どの相逢席(あいあいぜき)」

ネットの中古で買ったのですが、
前の持ち主さんの物らしき
「しおり」が挟まっていました。
手作りみたいで文字も絵もとても美しいです。
ありがたく頂きます。
大事にします。
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大店の跡取りと言ったらほとんど男ですが、
こちらの大店は三代以上前から娘が跡取り。
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男たちの情けなさから
代々引き継がれた家系に
婿として入った鈴之助の
家族想いのホームドラマです。
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「甲斐性とは物事をやり遂げる力のことで、
そちらばかりが取り沙汰されがちだが、
本来は、かいがいしく健気な性質をさす。
妻子のためと言いながら
馬車馬のように働いて家を顧みない夫より、
多少頼りなくとも
家族に向き合う夫の方がよほど値がある。」
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「因果応報は往々にして
悪い行いに対する報いととられがちだが、
決してそうではない。
悪が苦を生む悪因苦果も、
善が楽を生む善因楽果も、
ともに同じ因果である。
そもそも起きた事々には、善も悪もない。
どんな幸運も悲劇も無色であり、
色をつけ意味をもたせるのは人間だけだ。」
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婿の鈴之助と嫁のお千瀬の
仲が良い夫婦ぶりがとても可愛い。
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里子に出された
お千瀬の兄鵜三郎との和解の場面は
ジーンとします。
恨み辛みを根に持って
悪因苦果としてしまった鵜三郎を
婿の鈴之助と義父安房蔵が助けます。
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母親のお寿佐が
鵜三郎へ五十両渡す場面では
「詫び料ですか?手切金ですか?」と
緊迫する言葉に
母親お寿佐は「いいえ、礼金です。
このお金を差し上げるのは
鵜三郎さんではありません。
十年のあいだ育ててくださった、
お母さまへの、私どもの気持ちです」
と言うんですよねぇ。
鵜三郎も周りの家族も
そして読み手もグッとくる場面でありました。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「千年鬼(せんねんき)」

人と子鬼のファンタジー。
人間の内に宿る「鬼の芽」を子鬼たちが
過去の罪を見せる事で
償いや希望を描いています。
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7つのオムニバスとなっていますが
最終章に向かえば向かう程
切なくも哀しい物語となります。
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しかし、泣き悲しむ物語ではなく
希望を描いているところが感動致します。
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人が作った「天国と地獄」とは・・・
人が思う天国と地獄の大きな違いを
西條奈加さんの言葉で表現しています。
まさしく「希望があるか無いか・・・」
それが天国か地獄であるかの違い。
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先日購入したこちらの本には
表紙カバーが二枚付いています。
マンガチックな表紙がイマイチで未購入でしたが
今回の表紙の趣の良さで購入してみました。
ファンタジーにしてはシビアな物語ですが、
読後にジ~ンと胸に残る余韻となりました。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「曲亭の家」

曲亭(滝沢)馬琴の息子に嫁いだお路の
波乱の一生を描いています。
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いや~凄まじい人生だなぁ・・・
凄まじいと言っても大きな事件や
悲惨な目に遭うと言うものではなく、
ただただ嫁として馬琴家族に尽くす人生に
凄まじさを感じました。
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舅となる馬琴の人間性が異質過ぎ。
姑に至っては口うるさく嫁と言うより
女中扱い。
肝心の夫とは嫁いで間もなくから
不仲であり一度は家を出たお路。
こんな家だから女中が居つかず
短期・・・いや数日で逃げられてしまう・・・
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そんな極端な嫁ぎ先でのお路は
どこにそんなに気丈さを持っているのか・・・
病弱な夫の死をきっかけに
お路が馬琴家を支える・・・
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思えばお路は
夫が暴れたある日にお腹の子供を流産してしまう・・・
その後、夫を亡くし・・・
馬琴が失明し・・・
長女を養女に出し・・・
姑の死・・・
跡継ぎの長男の病死・・・
そして馬琴の死・・・
常に身内の世話と死との闘いだったお路。
晩年は馬琴の書いた「南総里見八犬伝」を
庶民や若者に分かりやすい読み物として
馬琴の作品を書き直します。
どれほどの苦労があった事か・・・
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女性として妻として嫁として母として、
お路は健気であり頑固であり
そして大きな愛情と包容力で
馬琴一家を守り通しました。
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読んでいて夢中になりました。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「心淋し川(うらさびしがわ)」

江戸の片隅に「心町(うらまち)」と呼ばれる
古びた貧しい長屋がありました。
長屋の通りには
「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる
小さく淀んだ川が流れていますが、
流れるはずの川ではなく
どん詰まりのような淀み川です・・・
そこに住む住人達は、
この川のように
人生に行き詰まりもがいていました。
そんな環境でありながらも、
住人同志助け合い、
何とか環境に順応していました。
物語としましては、
短編となっていますが、
最後まで繋がります。
主人公と言うかキーパーソンである
長屋の差配の茂十が最後に登場します。
茂十がこの心町(うらまち)の長屋に来た目的は・・・
茂十の思いが行き詰った人生となるのか
これから先自分を許し人を許し
この心淋しい長屋住人と生きて行くのか・・・
住人それぞれの物語が切なくも強さを感じました。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「亥子(いのこ)ころころ」

あ~面白かった~!(^^)
・・・・
武家出身の和菓子職人・冶兵衛。
出戻り娘のお永。
お永の娘お君。
親子三代で営む和菓子屋
「南星屋(なんぼしや)」。
毎日二品のみ販売。
日本全国を旅して
地域それぞれの和菓子を勉強した
治兵衛の作る和菓子は
こだわり抜いた絶品物で、
いつも客で賑わう。
・・・・
このシリーズは第二弾。
今回は、店の前で行き倒れになった
和菓子職人の雲平を助けた事で、
雲平が冶兵衛の店を手伝う事になります。
・・・・
雲平は、兄弟同然の職人仲間の亥之吉に会いに
京から江戸にやって来ましたが、
亥之吉は行方不明になっていました・・・
・・・・
治兵衛はじめ、お永・お君・
そして冶兵衛の弟五郎まで
亥之吉探しを手伝います。
・・・・
亥之吉の行方不明の事情が
ホロリ泣けます・・・
・・・・
和菓子独特の作り方や
形・味まで丁寧に描かれていて、
とても美味しそう~
実際食べてみたいものばかり(^^)
職人の技を想像しながら
読み進める事が出来ました。
・・・・
和菓子作りを土台に、
家族や人とのご縁と絆が
ほんわか爽やかに描かれていて、
次の刊が待ち遠しい作品であります(^^)
いつもありがとうございます

西條 奈加 「九十九藤(つづらふじ)」

現代で言うところの人材派遣業
「口入屋」の女主人「お藤」の奮闘記。
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表紙の絵がとても美しくて目を惹きます。
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藤の花は見た目の美しさとは別に、
その蔦(つた)は丈夫でよくしなるが、
捕まると、がんじがらめになり、
蜘蛛の巣に捕まったように難儀するとの事。
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お藤の人生を例えている題名としています。
・・・・
そのお藤が九十九藤のからまりから脱却し、
自分の道を切り開き、
人材を育て派遣先に送り出す手法で成功します。
・・・・
「商いは人で決まる」
・・・・
信用・信頼・真面目で忍耐強くを
徹底的に叩き込む育てかたは、
現代でも教訓になる姿を教えてくれます。
・・・・
お藤の幼かった時に
助けてくれた侍との再会から、
ひと騒動が起こります。
・・・・
一致団結した
お藤を取り囲む仲間たちのキャラクターも
丁寧に描かれていて魅力的です。
・・・・
人を育てるって
教える側の覚悟と責任が大きく、
人を見極める目も重要。
・・・・
身に付いたしつけが
自分にとっての天職へと
つながるという事ですねぇ。
ストーリーの面白さよりも
随所に描かれた人材育成の部分が
心に響き印象に残りました。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「せき越えぬ」

命がけの友情物語です。
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苦難の多い関越えで、
上役より理不尽を味わった武一が
仲間の友と共に、上役を断罪します。
褒美として加増された上に、
上役の失脚の後釜として、
箱根関所の関守の役職につく武一。
関越えにはそれぞれ、切実な事情を抱えた
旅人がやって来ます。
理不尽を味わったからこそ、
親身に関越えを全うする武一。
ある日・・・
生涯の友である騎市から
関所を通らずに山越えする為の協力を頼まれます・・・
やってはいけない協力をする武一。
日本国への新しい扉を開けようと奔走する騎市と、
騎市の恩師の命がけの関越え。
恩師の元妻理世への思慕を
胸に秘める武一。
竹馬の友であり、
唯一無二の親友である騎市と、
二度と会えない覚悟で関越えをする武一の、
友への寂寥が切ないです。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「ごんたくれ」
西條 奈加 「銀杏(ぎんなん)手ならい」

子供が出来ないと言う理由だけ
3年目にして一方的に三行半を突きつけられ、
物のように戻された萌が、
両親から受け継いだ手習所での
子供達や家族の触れ合いと奮闘を描いています。
萌は捨て子でした。
両親が営んでいる手習い所の
大きな銀杏の木の下に捨てられていました。
両親は萌を我が子として
愛情深く人として女として凛とした人間へと育てます。
子供が出来ないからと
さっさと戻す婚家の冷ややかな人情は
時代として仕方がなかったとは言え、
萌だけの原因なのか?
と言いたかったでしょうに…
萌は父親から手習所の一切を任されます。
萌は当初は子供達との触れ合いがチグハグで舐められていました。
萌は子供達一人一人との触れ合いから成長していきます。
手習所に来れない苦しい暮らしの子供の元へ通っては
なんとか学びも暮らしも成り立つよう奮闘します。
大人が思っているよりも子供達は
自分の置かれている立場や環境、
そして将来を意識し自覚しています。
後押しして、それぞれが将来に明るさを持てるように
励まし行動する萌と周りの大人達が
大変好ましく描かれています。
学ぶことの大切さ。
読み書きが出来なかった事で
人格も否定され辛い人生を歩んで来た職人の元に
弟子入りする生徒の話はホロっとしました。
出来れば続きもあると良いなぁ。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「鱗や繁盛記」

まだあどけなさが残るお末の奉公先料理店での奮闘記。
お末が大変可愛らしいです。
素直で骨身をおしまず働きます。
純粋な目を通して世間や人の心の中に飛び込み、
時にご縁を結び、時に励まし、時に謎解きをします。
単なる繁盛物語にしないのが西條奈加さん。
サスペンスもあり物語の終盤に向かうにつれて
おぞましい人間模様も描かれています。
作中お料理が沢山出て来るのですが
高田郁さんの「みをつくし料理帖」とは違って
本格的板前料理の為、
実際自宅で試して作ってみようという料理はありません。
ですので少々お料理の味は伝わりにくいかな。
アンコウの出汁で作ったお雑煮だの
ウナギの茶碗蒸しだのって、分からないなぁ~。
どんなに美味しいんでしょうねぇ。
お末の少女から大人になる過程を
もう少し描いて欲しかったかな。
時がすっとび過ぎて最後は畳み込むような収まりかた。
続編にも期待したい作品でした。
いつもありがとうございます

西條 奈加 「大川契り・善人長屋」

掏摸に騙りに美人局。
住人が全員悪党の「善人長屋」に紛れ込んだ
本当の善人・加助が、
またしても厄介事を持ち込んだ。
そのとばっちりで差配母娘は
盗人一味の人質に。
長屋の面々が裏稼業の技を尽して救出に動く中、
母は娘に大きな秘密を明かす。
若かりし頃、
自らの驕り高ぶった態度が招いた大きな罰のことを──。
流れゆく大川が静かに見つめた、
縺れた家族の行方を丹念に描く
人情時代小説。
・・・・・・・・・・
善人中の善人の「加助」が
困っている人を「お助けしたい」と
長屋につれてくるところから
話が始まります。
加助は、善人長屋の住人が
実は裏稼業持ちである事は知りません。
そんな厄介な加助によって
裏稼業の悪党達が解決するシリーズ。
面白いですヨ(^^)
いつもありがとうございます

西條 奈加 「まるまるの毬(いが)」

親子三代で商う和菓子屋「南星屋」
女房を早くに亡くした治兵衛は、
出戻りの一人娘のお永と孫のお君の三人で
趣向を凝らしたお菓子作りをして日々穏やかに過ごして居ます。
タイムスリップしてぜひ行って見たいなぁと思わせます。
中盤から家族にとっての大きな出来事が起こり
孫のお君は悲しみます。
その悲しみを乗り越えたのは
治兵衛のお菓子作りでした。
そしてお君はおじいさんの菓子作りを継ぎたいと決心します。
治兵衛の周りの人々のキャラクターも素敵ですし、
眼に浮かぶ風景がほのぼのします。
辛いことや悲しい事も家族で乗り越えると言う
逞しくも優しい物語に読後感も爽やかになりました。
吉川英治文学新人賞受賞作品だそうです。
いつもありがとうございます
