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会川 いち 「座卓と草鞋と桜の枝と」

会川 いち 

「座卓と草鞋と桜の枝と」

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武家もの2つの物語です。

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『座卓と草鞋と桜の枝と』

堅実で質素な夫婦の物語。

身近な物を大切にし、

だからと言って無理な我慢をする事もなく、

置かれた環境を大切にする二人。

姿の良い夫と横幅のある地味な妻。

当たり前の暮らしがいつまでも続くと思っていた・・・

当たり前に妻が傍にいて、

当たり前に夫が傍にいて・・・

題名の「座卓」は夫が仕事の内容をしたためていた机。

「草鞋」は妻が夫の為に丹精込めて沢山作っていました。

「桜の枝」は妻が育てようと大切にしていた桜。

夫婦の日常がこの三つのものから構成され

それぞれにどんな思いが込められていたのか・・・

淡々とした表現の中にじわ~っと沁みる優しさと

悲しさがありました・・・

物語の中の老人の言葉。

「涙の量だけが悲しみを表す術ではないと思うのです」

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『笛の音』

藩主代理と側近の物語。

特に目立った才覚のない凡庸として

単純でお人よしで、

謀(はかりごと)には向かない藩主代理。

側近の信次郎は、舌鋒鋭く有能、

容赦も遠慮もなく学問に秀でていました。

藩主の座を巡っての争いの中

二人はお互いを認め合い、

自分に無い才能や特性を活かし

藩主が交代するまでの20年以上の間を

無事に過ごす事が出来ました。

笛は藩主代理が奏でるのですが、

耳障りな程のへたくそさ。

この笛が藩主代理と側近信次郎の絆を深めます。

生涯を通しての物語となっていますが、

心温かになる読後でした。

・・・・・・・・・・・・・



いつもありがとうございます
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内田百閒(うちだひゃっけん)  「クルやお前か」

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内田百閒さんは無類の猫好き。

この作品は、
飼い猫「クル」が亡くなるまでの
看取りの物語です。

もう60年も前のお話ですから
現在の飼い方とは異なり、
寿命も短く、
クルは5年と数ヶ月の猫生でした。

短いとは言え、
内田百閒さん家族の
クルへの愛情のかけ方は大変深く濃密。

百閒さんと奥さんと女中さんの三人で
クルの最後を看取ります。
体中を撫で、
顔におでこをくっつけ、
泣きながら看取ります。

クルが弱くなってから
日記のように細かく書いています。
毎日往診に来てくれる獣医は
「良くなる」とは言いません。
覚悟の上ですが、
百閒さん家族は、
なんとかよくなるよう頼みます…。
薬に注射に惜しみない
治療に願いを込めます…

骨から毛が生えているかのような
やせ細ったクルは、
それでもどこにそんな力があるのか、
今まで暮らして来た
自分のお気に入りの場所を
見て回り歩き回ります。

亡くなった後の悲しみを癒してくれたのは
クルの夢でした。
夢に出て来るクルは懐かしい思い出の姿。

奥さんの腕を枕に寝る事が日課だったクル。
朝起きて、腕に頭を乗せたクルがいません…
改めて亡くなったことを実感し
声を出して泣く奥さん…

本当に愛されたクルの猫生を
情感たっぷりに描いて
もらい泣きします…



いつもありがとうございます

乙一  「暗いところで待ち合わせ」

無題

10何年ぶりかで再読。

面白いです。

オススメです。

「警察に追われている男が

目の見えない女性の家に

黙って勝手に隠れ潜んでしまう」

と、乙一さんはあとがきで言っています。

普段から陰湿な人間関係の先輩を

駅のホームから突き落としてしまう

と言う容疑で大石アキヒロが

逃げてしまった場所は、

駅のホームの目の前の家。

全盲で一人暮らしのミチルの家に隠れて、

ある事実を探すアキヒロ。

アキヒロは隠れながらも

家の目の前のホームを監視します。

何が目的なのか?

本当にアキヒロが先輩を突き落としたのか?


ミステリーですが、

優しいラブストーリーでもあります。

好きだ嫌いだのラブストーリーと言うよりも

お互いの再生物語と思いました。


全盲のミチルがアキヒロの為に

食事を作る場面や

棚から落ちた土鍋を

間一髪アキヒロが受け止める場面や

怖くて一人で外を歩けないミチルが

思い切って歩き出す場面で

アキヒロが言葉を発せず

付き添う場面など…


人の心の中の思いやりを

ミステリー仕立てで物語っています。

全盲のミチルが事件の解明をすると言う

設定に面白さが増します。


文庫の厚さも丁度良く、

くどさやひねりもなくて

とても読みやすいです。


更に最後の乙一さんによる「あとがき」が

面白いです。

クスっと笑います。

エッセイがあったら

ぜひ読みたい作家さんです。



いつもありがとうございます

井上 ひさし 「握手」

本
井上ひさしさんは、

仙台のキリスト教児童養護施設で

中学から高校まで過ごしました。

その時にお世話になった

カナダ人のルロイ修道士との

再会と別れの時を描いています。

………………………

「日本人は先生に対して、

ずいぶんひどい事をしましたね。

木槌で指を叩き潰すに至っては、

もうなんて云っていいか。

申し訳ありません」




「総理大臣のようなことを云ってはいけませんよ。

だいたい日本人を代表して

ものを云ったりするのは傲慢です。

それに日本人とかカナダ人とか

アメリカ人といったようなものがあると

信じてはなりません。

一人一人の人間がいる、

それだけのことですから」

………………………………

「仕事がうまく行かない時は、

この言葉を思い出してください。

『困難は分割せよ』。

焦ってはなりません。

問題を細かく割って

一つ一つ地道に片付けて行くのです。

ルロイのこの言葉を忘れないでください」



いつもありがとうございます

芥川 龍之介  「蜜柑」

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たまたま同じ列車に乗り合わせた「私」と

貧しい身なりの少女のほんの束の間の物語です。

どんよりと曇った冬の日暮れ。

うすぐらいプラットホーム。

悲しげに吠える犬。

車内は一人。

疲労と倦怠の自分。

全てが暗くもやる孤独で静かな風景の中、

慌ただしく乗車して来る

薄汚れてみすぼらしく下品な顔立ちの少女。

列車が走り出し、

暗いトンネルを過ぎる頃に少女が窓を開けます。

窓から見えるのは少女の弟達。

それからの少女の行動は

「私」にも読み手にも色鮮やかに焼き付けられます。

風景画を眺めているような心に残る物語でした。



いつもありがとうございます

有島 武郎 「火事とポチ」

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激しいポチの吠え声で目を覚ます「僕」。

自宅の火事をいち早く知らせてくれたポチ。

命からがら家族が逃げて助かりますが、

ポチが行方不明になります。

必死に探す僕。

やっと見つかったポチは全身火傷で重症。

僕の呼びかけに少しだけ目を開き尻尾を振るポチ。

短いお話ですが、

僕とポチの健気な表現がを誘います。


いつもありがとうございます

尾崎放哉選句集

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孤独な俳人「尾崎放哉(おざき ほうさい)」

41歳の若さで肺結核にて亡くなる。

最後に看取った人は、隣りに住む老婆一人だったと言う。

東大を卒業した尾崎。

人間関係と酒で、世間から離脱。

終の棲家は、小豆島。

自分の命が短い事を悟った尾崎は、

恩師に「海の見える所で死にたい」と伝える。

たった一人の深い孤独の中から生まれた句は、

自由旋律句。種田山頭火が「動の俳人」なら

尾崎放哉は「静の俳人」と言われた。

現在も尾崎のお墓には、季節の草花とお酒が

欠かさず手向けられているそうです。

「咳をしても一人」
「こんなよい月を一人で寝て見る」
「障子しめきって淋しさをみたす」

などなど、寂寥感溢れる句ばかりだが、

清々しさと包容力のある俳人と思いました。

因みにKindle版で無料で読めます(^^)




いつもありがとうございます

大岡 昇平 「野火」


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昭和二十六年「展望」に連載。

読売文学賞受賞。

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致命的な宣告を受けてるのは私であるのに、

何故彼がこれほど激昂しなければならないかは不明であるが、

たぶん声を高めるとともに、

感情をつのらせる軍人の習性によるものであろう。



情況が悪化して以来、

彼らが軍人のマスクの下に隠さねばならなかた不安は、

我々兵士に向かって爆発するのが常であった。


この時わが分隊長がもっぱら食糧を語ったのは、

むろんこれが彼の最大の不安だったからであろう・・・


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大岡 昇平


 1909年、東京都生まれ。

京都大卒。在学中より文学を志す。

四十四年召集を受け、

赴任地のフィリピン・ミンドロ島で敗戦を迎え、

米軍捕虜となる。

生還後、

「俘虜記」「野火」「ミンドロ島ふたたび」等、

戦争体験に基づく生々しい作品を多数発表。

恋愛小説・翻訳・評伝などの著作もある。

六十二年芸術員会員に選ばれるが辞退。

文学者としての良心に従い、

率直な文筆活動を続けて、

さまざまなジャンルに及び高い世評を受けた。

八十八年、永眠。



プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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