五十嵐 佳子 「結実の産婆みならい帖・願い針」

幕末の江戸・八丁堀で産婆をする結実の成長を描く、シリーズ第三作!
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想い人と結婚したばかりの若き産婆「結実」。
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産婆としての成長ぶりもとても初々しく健気で心温かくなります。
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祖母の真砂から指導を受ける事は、技術的な事ばかりではない。
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祖母真砂の言葉が印象に残りました。
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真砂は、赤ん坊がよく泣く理由は、おむつ・空腹・寝たい時・動きたい時・・・
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それ以外で、何も理由がないように見えるのに泣き止まなかったりするのはどうしてか・・・
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真砂がほかにも理由が二つばかりあるように思うと言う・・・
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一つは・・・
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「赤ん坊はずっとおっかさんの腹の中にいただろう。
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突然、勝手が違うこの世に出てきて、はじめてのことばかりで、怖かったり不安だったりするんじゃないかって・・・
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お腹の中じゃ、息を吸ったり、乳を飲んだりしなかっただろう。
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陽の光だって見たことがない。
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聞いていた音だって、おっかさんの腹の水を通したものばかりだ。
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かいだことのない匂いもいっぱいある。
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冬の空気は冷たいし、布団の感触だって、赤ん坊が知っているはずがない。
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もう一つは・・・
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おっかさんも、初めての子育てはこれでいいのかと、不安でいっぱいだったりするだろう。
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十月十日おっかさんの腹の中で暮らしてきた赤ん坊は、おっかさんの気鬱を、我が事のように察して、泣いていることだってあるような気がするんだ。
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赤ん坊がよく泣くからと、母親が不安になると、ますます泣き止まなくなったりするだろう・・・
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でも産婆は、決して母親を責めてはいけないよ。
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しっかりしろとか、立派な母親になれとか、偉そうに言ってはいけない。
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不安になるのは、赤ん坊のために良いおっかさんになろうとしているからなんだから。
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産婦を励まして元気にするのも、産婆の仕事だからね」
いつもありがとうございます

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