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山本 周五郎 「さぶ」

20181016さぶ
出だしが有名ですね。

「小雨が靄(もや)のようにけぶる夕方、

両国橋を西から東へ、

さぶが泣きながら渡っていた。」

題名が「さぶ」ですが

登場のほとんどを占めるのが「栄二」です。

器用で賢くて男前の栄二。

ぐずでのろまで不器用なさぶ。

正反対の二人の生涯に渡る親友のお話。

下町の経師屋の職人の二人。

襖障子や表具の老舗に住みこみで働いているのですが、

栄二は腕の良い職人へと成長。

さぶは「糊」の下仕事から成長せず

いつも叱られてばかり。

栄二がある大店で起きた理不尽な事件により

仕事を辞めさせられます。

あげくに身の潔白を訴え暴れた事で罪を犯してしまい、

寄場人足へと送られてしまいます。

ここから寄場人足の島での暮らしが描かれます。

栄二は大店や奉公していた店や

自分を疑い

人生をめちゃくちゃにした者たちへの復讐を心に決め、

人足仲間をも拒絶し、

一人放免の時を待つのでした。

しかしある日を境に

栄二は寄場人足の面々と距離を縮め

仲間意識を持つようになります。

栄二はこの島での暮らしで

日々成長して行くのでした。

さぶと、栄二を慕うおすえの献身ぶりで

栄二は島から放免後、

経師屋職人として身をたてるまでになります。

身も心も大人になった栄二。

栄二にとって「さぶ」は

人としての「道しるべ」と思います。

なぜほとんど栄二が描かれているのに

題名を「さぶ」としたのか。

いつも情けない顏をしながらオドオドし、

しゃべる言葉も足らず説得力もない「さぶ」

世間では栄二は誰からも好まれる反面、

何をやっても不器用でばかにされる「さぶ」

栄二はそんな「さぶ」にイラつきます。

しかしそれは「さぶ」を通して

世間へのイラつきなのだと思います。

世渡り下手な「さぶ」を観て、

理不尽な罪を被せられた栄二は

「さぶ」を見捨てるような世間が許せない。

「さぶ」のような人間こそ

人の成功の下地作りに大切な存在なのだと。

「さぶ」は自分の事より

栄二や栄二と夫婦になったおすえの為に

身を犠牲にしながらも働き続け助けます。

「さぶ」にとって栄二はこの世でたった一人

自分を見捨てずに認めてくれる友であり恩人なのです。

人は一人では生きられない。

助けあい支え合う存在を

描いているのではないでしょうか。

どんなに虐げられても

「さぶ」が思いやりを常に持ち行動する姿を観て、

栄二は人の情へも素直に感謝するようになるのでした。

感動する物語と言うよりも共感する物語と思います。

物語の流れで最後の方はどんでん返しがあります。

このどんでん返しは賛否あるかと思います。

それをどう思うかはあなた次第!(^^)

ちょっと物語が長い気がします。

その割に「さぶ」の描きが少ない。

もっと「さぶ」を描いて欲しかった。

「さぶ」は本名「三郎」です。



いつもありがとうございます
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山本 周五郎 「季節のない街」


季節のない街 (新潮文庫)季節のない街 (新潮文庫)
(1970/03/18)
山本 周五郎

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1.街へゆく電車
2.僕のワイフ
3.半助と猫
4.親おもい
5.牧歌詞
6.プールのある家
7.箱入り女房
8.枯れた木
9.ビスマルクいわく
10.とうちゃん
11.がんもどき
12.ちょろ
13.肇くんと光子
14.倹約について
15.たんばさん

・・・・・・・・・・・・

「プールのある家」が印象的でした。

ホームレスの親子二人の物語。

まだ40代の父親と6歳程の息子。

毎日小さい息子が古鍋を持ち歩き

お店の残飯を貰い歩く。

道中、敵も多い。犬・猫・そして人間・・・。

そんな日々の親子の楽しみは父親が語る理想の家。

いつかこんな建築物の家を作ろうと

息子と語り合う。

息子は父親の夢に「そうだね、うん、ほんとだ」

と同調し話を合わせる。

父親は、こんなに小さく健気な息子一人守る事も出来ず

夢を語るのみ。

博識で理性もある父親なのになぜこんな暮らしをしなければ

ならなくなったのか・・・

息子への愛情をどのように思っているのか・・・

第三者からは何とでも言える父親への厳しい思いも

誰も具体的に救うことはしない・・・

時代がそうさせるのか、寄せ付けない父親への諦めか・・・

そんなある日、息子が死んだ・・・

残飯の中にあった「しめ鯖」で食中毒を起こしたのだ。

息子は火を通してから食べた方が良いのではないかと言ったのに・・・

父親は、酢で締めた鯖だから大丈夫と言ってきかない・・・

数日間の苦しみの後に息子は死んだ・・・

そんな苦しみの中でも父親は夢の家を語るばかり・・・

息子は「だいじょうぶだよ、心配しなくってもいいよ。

ぼくはもうすぐ治るよ」
と言う・・・

死に行く息子が最後に言った言葉は・・・

「ねえ、忘れてたけどさ、プールを作ろうよ」

父親は「そうだな、うんそうしよう」・・・

息子は死んだ・・・

父親はその後小さな仔犬と歩き暮らすようになる・・・

小さな息子に似た素直で可愛い仔犬と。



つめたい雨が降りだしたある日

父親は墓地の片隅の空き地の前に佇む・・・

「プールを作るのは賛成だね。

庭の芝生のまん中がいいかな。

エバー・グリーンのまん中に、

白タイル仕上げのプールがあるのは悪くないよ。

ちょっとしたブルジョワ気分じゃないか」


「大丈夫、きっと作るよ、きみがねだったのは、

プールを作ることだけだったからな・・・

きみはもっと、欲しい物を

なんでもねだればよかったのにさ・・・」

雨のしずくがたれるので、

彼はまた顔を手で撫で、

眼のまわりをこすった。

空はかなりくらくなり、

仔犬はふるえながら、

あまえるようになき声をあげた。




いつもありがとうございます

山本周五郎 「萱笠」

髪かざり (新潮文庫)髪かざり (新潮文庫)
(1987/09/30)
山本 周五郎

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「髪かざり」の中の一遍。

「萱笠(かやかさ)」

ふとした弾みで言い交わした相手がいると嘘をついてしまう「あきつ」
相手の男は、
武芸には長けているが粗暴であるとの噂の「吉村大三郎」。
足軽で戦に出陣中。
嫁の来てがなく困っていた大三郎の母親「より女」は大層喜ぶ。
そうして話は本人たちの思惑とは裏腹にトントン拍子に進んでしまい、
あきつは大三郎の家に嫁として暮らすこととなる・・・

大三郎は畑をこよなく愛しており、

「土というものは耕す者の心をうつす、
自分はものを作るというより、
その土に映る自分の心をみるのが目的だ・・・」

と姑から大三郎の思いを聞かされる。

あきつは、巷の噂と違う大三郎の心根を感じ、

「そのお心にあやかりたいと存じますけれど・・・」

と姑に願いでて大三郎が大事にしている畑を耕すことにより、
本当の嫁として暮らすようになる。

戦に出陣していた大三郎は、
仏となって帰って来る。
一度も会った事のない夫と妻・・・
しかし、あきつはすでに丹精込めて作った畑と
萱笠に自分の夫であると肌身に感じていた・・・。


「これから畑へまいるときはわたくしこれを冠らせて頂きます。
そうしたらいつもお側にいるようでございましょうから・・・」


・・・・・・・・・・・・・・

「あきつ」と姑の関係が大変うまく行っている事が、
この物語の中で自分としては、折り合いのつく部分でした。
息子が戦死して一人残された母親のはずが、
ふとした誤解がきっかけで嫁を授かることになったのは、
息子の唯一の親孝行だと思います。

山本周五郎 「二粒の飴」

髪かざり (新潮文庫)髪かざり (新潮文庫)
(1987/09/30)
山本 周五郎

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「髪かざり」の中の一編。

貞代の娘の嫁入り前夜、
自分の幼い時に教えられた母から娘への
二粒の飴の話。

武家として生まれ生きて行くということ。
親の子を思う心情。

・・・・・・・・・・・・・・・
貞代が5歳・弟が1歳の時に、
父親が御役方の責任を取らされ切腹する。
母親と姉弟は、実家に頼らず
奥州相馬(福島)から江戸をめざし旅をする。


立つ日にはちらちらと雪が舞っていたくらいで、
寒さに向かう季節ではあり、
幼な子を二人つれての馴れぬ旅はどんなに
お辛いことだったか、
考えると今でも胸がつぶれるように思うばかりです・・・。

もう昏れがたで往来の人もなく、
田面(たのも)に張った薄氷が、
曇った黄昏のにぶい光を湛えて、
身にしみ徹るように寂しく寒ざむとしたけしきでした・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・
江戸に出た親子の暮らしぶりは、大層貧困でした。
近所に世話をしてくださる人々にも甘えることなく、
誰に恥じる事のなきよう母親は、
子供にも耐え忍ばせます。

貞代が10歳、弟が5歳の時に母親は亡くなります。
なくなる前に貞代と弟を枕許に呼び寄せ、
二粒の飴を与えます。


「世の母親というものは、
自分の口は詰めてもわが子には甘い物をやって、
よろこぶ顔が見たいものです。
それが母親としてのなによりの悦びなのです。

・・・けれども母さまはがまんした、
ついそこへ出そうとしながら、
じっと耐えました。
なぜがまんして来たのか、
それはあなた方が武士の子だからです・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「幼弱のうちに苦しさ辛さに耐え、
寒暑を凌ぐ(しのぐ)ちからを養わなければ、
成長してからお役に立つ者にはなれません。

父上があのようなご最期をあそばして、
あなた方お二人を女手に養育しなければならなくたった時、
母さまはなによりさきに、
甘く育ててはいけない、
ということを戒めにしました。

世の母親が誰しも持っている心の飴を、
そのとき母さまは棄てたのです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「これでもう安心だという時が来たら、
飴も菓子も、
好むほどの物を与えてやろう、
まだまだその時ではない、
そう自分に戒めて来たのですが、
・・・母さまはその時まで
あなた方をみてあげられなくなった、
もうお別れしなければならぬかも知れない、
武士の妻としてはふたしなみなことです、
恥ずかしいと思います。
けれど、あたりまえの母親としては、
・・・せめていちど、
あなた方お二人のよろこぶ顔が見たかった、
どうしてもがまんができなかったのです・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・
母親が亡くなると近所の人たちが
大層親切に後始末の世話をしてくれます。
そうして、納戸にあった鎧櫃(よろいびつ)を見つけます。
中には伝来の甲冑と金包みがありました。
骨身を削り亡くなった母親は、
どんなに苦しくとも、
決して重松家の物には手をつけなかった事が、
町の評判になり、藩にまで聞こえ御召し返しとなり、
重松家は再興します。
・・・・・・・・・・・・・・・・

「無いなかから子に飴を求めてやることはやさしい、
自分の口を詰めても遣れるものです。
そうしてよろこぶ子の顔を見ることが、
母親というもののなによりの満足です。

けれども手にある飴を遣らずにおくということは
むずかしいのですよ。
母親は誰しも心に飴を持っています、
そして絶えず、それを遣って子のよろこぶ顔を見たい、
という欲望にかられるものです。
もう余命がないとわかって、
せめていちどはとおぼしめしながら、
母上は自分の弱さを恥じていらしった。


二粒の飴といっしょに、
このお言葉を添えてあげます。
そしてあなたが、
あなたのお子にこれを伝えられる母になるよう、
祈っています。




山本周五郎「なんの花か薫る」

山本周五郎中短篇秀作選集〈2〉惑う山本周五郎中短篇秀作選集〈2〉惑う
(2005/10)
山本 周五郎

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山本周五郎中短篇秀作選集2「惑う」の中の一遍。

「なんの花か薫る」

岡場所の女郎「お新」が見た、
勘当された侍「房乃助」との残酷な夢物語。

酔って喧嘩をし、勘当された房乃助を匿ったお新。
その日から情をかわし将来を約束する仲になる。
やがて房乃助は勘当が解け、お新と岡場所の女郎仲間たちに
感謝の言葉を述べる。

そして・・・
勘当が解けたと同時に婚約していた娘を
嫁にもらうことになったと告げる・・・

お新とかわした将来の約束は何だったのか・・・

見てはいけない夢を見てしまったお新・・・

房之助が言います

「まさか・・・
あれを本気にしたんじゃないだろうな。
私とお新がいっしょになるっていう、
あの話を・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

やくざな博奕好きの暴力をふるう父親と
いくじなしの泣くだけの母親と
病身で寝たきりの妹の為に16で身を売ったお新・・・。


光を見い出す終わりかたがほとんどの山本作品の中で、
この作品は、身も蓋もないせつなさを通り越して、残酷な終わり方です。

房乃助から本気ではないと告げられた時のお新・・・
怒り狂い泣き叫ぶ女郎仲間の声を
自分の身代わりとして背後に受けながら、
辛うじて女として、女郎としての矜持を保つ姿が
静かに描かれています。



プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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