山本 周五郎 「さぶ」

出だしが有名ですね。
「小雨が靄(もや)のようにけぶる夕方、
両国橋を西から東へ、
さぶが泣きながら渡っていた。」
題名が「さぶ」ですが
登場のほとんどを占めるのが「栄二」です。
器用で賢くて男前の栄二。
ぐずでのろまで不器用なさぶ。
正反対の二人の生涯に渡る親友のお話。
下町の経師屋の職人の二人。
襖障子や表具の老舗に住みこみで働いているのですが、
栄二は腕の良い職人へと成長。
さぶは「糊」の下仕事から成長せず
いつも叱られてばかり。
栄二がある大店で起きた理不尽な事件により
仕事を辞めさせられます。
あげくに身の潔白を訴え暴れた事で罪を犯してしまい、
寄場人足へと送られてしまいます。
ここから寄場人足の島での暮らしが描かれます。
栄二は大店や奉公していた店や
自分を疑い
人生をめちゃくちゃにした者たちへの復讐を心に決め、
人足仲間をも拒絶し、
一人放免の時を待つのでした。
しかしある日を境に
栄二は寄場人足の面々と距離を縮め
仲間意識を持つようになります。
栄二はこの島での暮らしで
日々成長して行くのでした。
さぶと、栄二を慕うおすえの献身ぶりで
栄二は島から放免後、
経師屋職人として身をたてるまでになります。
身も心も大人になった栄二。
栄二にとって「さぶ」は
人としての「道しるべ」と思います。
なぜほとんど栄二が描かれているのに
題名を「さぶ」としたのか。
いつも情けない顏をしながらオドオドし、
しゃべる言葉も足らず説得力もない「さぶ」
世間では栄二は誰からも好まれる反面、
何をやっても不器用でばかにされる「さぶ」
栄二はそんな「さぶ」にイラつきます。
しかしそれは「さぶ」を通して
世間へのイラつきなのだと思います。
世渡り下手な「さぶ」を観て、
理不尽な罪を被せられた栄二は
「さぶ」を見捨てるような世間が許せない。
「さぶ」のような人間こそ
人の成功の下地作りに大切な存在なのだと。
「さぶ」は自分の事より
栄二や栄二と夫婦になったおすえの為に
身を犠牲にしながらも働き続け助けます。
「さぶ」にとって栄二はこの世でたった一人
自分を見捨てずに認めてくれる友であり恩人なのです。
人は一人では生きられない。
助けあい支え合う存在を
描いているのではないでしょうか。
どんなに虐げられても
「さぶ」が思いやりを常に持ち行動する姿を観て、
栄二は人の情へも素直に感謝するようになるのでした。
感動する物語と言うよりも共感する物語と思います。
物語の流れで最後の方はどんでん返しがあります。
このどんでん返しは賛否あるかと思います。
それをどう思うかはあなた次第!(^^)
ちょっと物語が長い気がします。
その割に「さぶ」の描きが少ない。
もっと「さぶ」を描いて欲しかった。
「さぶ」は本名「三郎」です。
いつもありがとうございます

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