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藤沢 周平  「時雨みち・山桜」

2020111802.png

11の短編の中の「山桜」



20ページ程の短い物語です。



桜の描写、

緻密な心情表現に引き込まれます。



先の嫁ぎ先で夫を亡くし

実家に戻された「野江」。

再婚先の磯村家では、

嫁として努めても蔑まれ、

馴染めず辛い日々…



ある日、

叔母の墓参りに立ち寄った先の

美しい山桜のたもとで

手塚弥一郎と出会います。



手塚と野江の出会いが、

本当の縁となります。



後に弥一郎が

賂で私腹を肥していた重臣を

刺殺するという事件を起こします。



本来なら切腹ものですが、

弥一郎の処分は寛大なものとなり、

長期の投獄で済む処分となります。



野江は再婚先から

去り状をもらい離縁します。



野江にとって本当の嫁ぎ先は、

弥一郎の家と思いを決めます。



野江が山桜の枝を携えて

弥一郎の家に向かう覚悟の場面が

とても清々しく美しいです。





いつもありがとうございます
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藤沢 周平 「橋ものがたり」

2020050601.png

10編の短編集。

様々な人間が行き交う江戸の橋を舞台に

男女の喜怒哀楽を描いた時代小説。

・・・・・・・

特に好きな作品は「小ぬか雨」。

人殺しをしでかし、

追われた新七と名乗る青年を匿ったおすみ。

新七とおすみの

束の間の数日間で訪れた不意の恋。

出会いと別れのせつなさが

「小ぬか雨」のような情景となります。

ドラマにもなったのですが、

ナレーションの中村梅雀さんが素晴らしいです。

永山絢斗さんと北乃きいさん主演。

脇役の仁科貴さんが

このドラマの締めをきっちりと演じきって

原作よりもドラマの方が好きな作品となりました。

仁科貴さんは川谷拓三さんの息子さん。

そっくりです。




いつもありがとうございます

藤沢 周平 「暁のひかり」

藤沢 周平

 「暁のひかり」

20190709暁のあかり


6つの短編集です。

悲しい市井物が5つ。

皮肉なユーモアがありクスっとする物語が1つ。

・・・・・・・・・・・・・

1.暁のひかり
2.馬五郎焼身
3.おふく
4.穴熊
5.しぶとい連中
6.冬の潮

・・・・・・・・・・・・

「暁のひかり」は

自分で身を落として賭場で働く市蔵と

足が悪く体の弱い娘との出会いと別れ・・・

市蔵の落ちてしまった人生は

元へ戻す事が出来なかった・・・

市蔵はそれなりに自分で自分の人生にケリを

つける最後が悲しいです・・・

・・・・・・・・・・・・・・

「馬五郎焼身」

幼い娘を失った馬五郎の荒くれ様が

手をつけられない程になった原因とは・・・

誰に対しても馬五郎は昔のような穏やかさで

接する事は出来なくなっていました。

娘を失って女房と別れた馬五郎・・・

そんな馬五郎は最後の最後に

自分の本当の思いを身を投げ出してケリをつけます。

馬五郎の人生の最後があまりにも悲しいです・・・

・・・・・・・・・・・・・・

「おふく」

同じ長屋の幼友達のおふくが

売られて行きます・・・

御酒蔵(みきぞう)とおふくの二人の

胸の内の想いの表現が素晴らしいです。

青年になりおふくを探し歩く御酒蔵。

おふくはすでに他所へ売られていました・・・

それからの御酒蔵は、やくざの親分の下

荒れた暮らしをするようになります。

ある日の危ない仕事を逃げ切った御酒蔵は、

江戸を離れます・・・・

三年後に戻った御酒蔵は偶然おふくを見掛けます。

あんなに探したおふく・・・

目の前で見かけたおふくは、

もう御酒蔵の世界とはかけ離れていました・・・

御酒蔵のこれからの人生のやるせなさが

しみじみ切ないです・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

「穴熊」と「冬の潮」は

物語として悲しいものと言うより

闇のような暗い読後感でした・・・

・・・・・・・・・・・・・・

「しぶとい連中」が

この短編集の中で一番好きです。

クスっとユーモアがあって

なんとも幸せな先行きが見えて安心出来ました。

身投げしようとした母と

幼い子供2人を助けた賭場で働くやさぐれた熊蔵。

母子との出会いが熊蔵の人生を変えます。

子供達が可愛らしくて他の悲しい物語と違い、

生き生きと感じ思わず応援したくなりました(^^)

頑張れ熊蔵!



いつもありがとうございます

藤沢 周平  「驟りあめ (はしりあめ)」

藤沢周平

「驟りあめ (はしりあめ)」

20190627はしりあめ

10編の江戸の町で懸命に生きる人々の物語。

「捨てた女」と言う物語が、

結末は違いますが、

フェデリコ・フェリーニ監督の

「道」と言う映画を思い出しました。

何をやってものろまで

生きる術の下手な女を捨てた男が、

人を刺して遠島の刑になり、

10年後戻って来ましたが、

すでに女はいませんでした。

一人でどうやって暮らしているのか…

男はこれから先の自分の身の振り方よりも、

女を探すことが自分にとっての

たった一つの望みとなっていました…

・・・・・・・・・・・・・・・・

表題の「驟り雨」は、

一人の盗人が軒下に潜んで雨宿り中に、

病い持ちの母親と幼い娘と出会い、

自分の人生が変わると言う物語です。

・・・・・・・・・・・・・・・

「遅い幸せ」は、

どうしようもないやさぐれだ弟の為に、

嫁ぎ先から離縁し出戻った姉が、

前科持ちの桶職人から救われる物語。

弟が博打場からの借金を返す為に

姉が身を売るよう脅される所を

前科持ちの桶職人が救います。

どんな前科だったのか、

博打場の親分に仁義を切る啖呵により、

姉は救われます。

・・・・・・・・・・・・・・・

貧しいながらも、

後悔と諦めのままで終わらない

救われる物語でした。



いつもありがとうございます

藤沢 周平  「時雨のあと」

藤沢周平

「時雨のあと」

201906時雨のあと

1.雪明かり

2.闇の顔

3.時雨のあと

4.意気地なし

5.秘密

6.果し合い

7.鱗雲

・・・・・・・・・・・・・・・

「果し合い」は、

仲代達矢さんで映像化されていましたね。

年老いた部屋住みの厄介者大叔父(仲代達矢)の

身の回りの世話をしてくれる優しい姪の美也の為に、

切腹覚悟の一世一代の果し合いに向かうお話。

後悔ばかりだった不遇の自分の人生の最後を、

姪と想いを寄せ合う下級武士の為に

行動を起こす潔い武士の姿を描いています。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「雪明かり」は

山田洋次監督の「隠し剣鬼の爪」の元になっています。

父の後妻の連れ子由乃と

養子に出された血の繋がりのない兄の絆の物語。

嫁に行った由乃ですが、

婚家でのあまりに惨めな扱いの事実を知った兄が、

婚家から無理やり背負って

由乃を救い出すシーンが泣けます。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「時雨のあと」は、

兄を信じ切っている妹の姿が本当に泣けます。

仕事中の怪我により

兄は日雇いの苦しい暮らしをしており、

だんだんと憂さ晴らしのために

博打にのめり込みます。

妹は兄が怪我で仕事がうまく行かない事で

自ら身を売って兄を助けます。

博打に使う為のお金をせびりに来ても、

妹は兄が飾り職人としてお金が必要なのだと

借金してまで兄に渡します。

そんな姿を日々見ていた博打場の頭に

きつく諭され妹の為に心を入れ替える兄。

頭に諭される中で、

兄は小さい頃を思い出します。

両親に死なれ、兄妹が親戚に預けられた時、

兄が親戚に叱られ、

晩飯抜きだといわれ泣いていた時に、

妹が兄に寄り添います。

親戚は妹を呼びに来て飯を食えと言いますが、

妹は頭を振って兄から離れません。

そして

「兄ちゃんが食べないから、

あたいも食べない」と

兄の肩につかまっていた事を思い出し、

涙をこぼし、いままで妹を騙していたことを

後悔するのでした。

「時雨」って、涙ぐむとか、

涙を落とす事という意味もあるんですねぇ。

兄の涙のあとは、

妹のために向かう事を意味しているのでしょうか…

とても素敵な物語でした。

・・・・・・・・・・・・・・・

「意気地なし」も良かったなぁ。

女房に死なれ、乳飲み子を抱えながら

情けなく背中を丸めるだけの伊作と

赤ん坊の世話をする同じ長屋に住むおてつの物語。

男手一つで乳飲み子を育てることは

並大抵ではありません。

仕事をしながら乳や夜泣き、洗濯に飯…

途方に暮れ、

赤ん坊と心中しようとする伊作を

おてつが叱り飛ばします。

そして・・・

伊作に向かって言うおてつのセリフが、

二人の未来と赤ん坊を救う事になります。

暗いばかりではない

慎ましくも穏やかで幸せを思わせる物語に

ほろっとしました。



いつもありがとうございます

藤沢 周平  「日暮れ竹河岸」

藤沢周平

「日暮れ竹河岸」

再読。

201906藤沢周平

安藤広重の浮世絵を借景にした

数ページの短い19の物語。

男と女、親と子、夫婦、友と友、

そして一人の男、一人の女…

それぞれの悲哀を

目の前の浮世絵を眺めるが如く描いています。

悲しみ、切なさ、孤独な「思い」や「想い」を、

美しい風景描写で淡く優しく彩っています。

中には、寄り添う人への有難さと

前向きさも描いている物語もあり

(桐畑に雨のふる日)

読み手はフワッと心が落ち着きます。

藤沢周平さんの描写の細やかさと美しさに、

ストーリーだけではない、

文章表現に読後静かな感動を味わえました。



いつもありがとうございます

藤沢 周平 「夜の橋」

2019041801.png

9つの短編。

表題の「夜の橋」

博奕に溺れた民次のせいで夫婦別れしたおきくが、

半年ぶりに民次を訪ねてきます。

嫁に欲しいと言っている人がいると、

民次に相談に来るのですが、

心の底では、民次とやり直したい、

再婚話を止めて欲しいと思うおきく・・・

もう自分には関係ないと

一旦は突き放す民次でしたが、

相手が博打にはまる番頭で、

おきくを金づるにする魂胆であることを突き止め、

危険を顧みず相手の男と対峙します。

どん底に落ちて改めて当たり前の暮らしに

目覚める民次。

おきくの民次を想う気持ち・・・

気持ちを受けとめ体を張る民次・・・

二人の再起の物語でした。

・・・・・・・・・・・・・・・



いつもありがとうございます

藤沢 周平 「夜消える」


夜消える (文春文庫)夜消える (文春文庫)
(1994/03)
藤沢 周平

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酒びたりの父親が嫁入りの邪魔になると娘に泣きつかれた母親、
岡場所に身を沈めた幼馴染と再会した商家の主人、
五年ぶりにめぐりあった別れた夫婦、
夜逃げした家族に置き去りにされた寝たきりの老婆…。
市井に生きる男女の哀歓と人情の機微を鏤骨の文章で綴る珠玉の短編集。
単行本未収録の名品七篇。


・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.夜消える
2.にがい再会
3.永代橋
4.踊る手
5.消息
6.初つばめ
7.遠ざかる声
・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.夜消える
6.初つばめ
が良かったです。

「夜消える」は

身内の為に苦労してきた事と引き換えにして来たものへの

やるせなさ・・・

戻る事の出来ない時間・・・

老いて行く事へのあきらめ・・・

なんとももの悲しさも感じます。

「初つばめ」は以前も読んでいたのですが、

再読するたびにちょっとずつ印象が違う読後感です。

その時々の自分の状況で

読み方が変わってくるのでしょうねぇ。

可哀そうとかみじめとか、

悲しいという哀れさだけで終わらせず、

強さと幸いを呼び込む女性を描いているのが救われる思いです。


いつもありがとうございます

藤沢 周平 「初つばめ」

【送料無料】初つばめ

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価格:650円(税込、送料別)





驟り雨(はしりあめ)

遅いしあわせ

運の尽き

泣かない女

踊る手

消息

初つばめ

夜の道

おさんが呼ぶ

時雨みち(しぐれみち)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「初つばめ」


誰の為に自分の体も犠牲にして生きて来たのか・・・

そんな思いをぐっとこらえ必死に働いて来たなみ・・・

弟の友吉が奉公するようになると、肩身の狭い思いをさせたくないと

勤め先を替えるなみ・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


友吉が連れてきた「おゆう」と言う娘と

なみの所へ挨拶に来る場面・・・

なみの思っていた二人とはかけ離れていた。

おゆうの高価な身なりに所作。

顔もほとんど上げず、友吉と共に挨拶だけして帰ろうとする・・・

友吉もすでに姉の存在は「結婚の報告」をする身内との態度・・・

二人は二人のこれからの人生があり、姉に対しては身内としてだけの

間柄であり、できればこれからはかかわりたくない存在となっていた。

なみは二人の前では何を話すにも壁があった・・・

長年、酒飲み相手の仕事をして来たなみの風体は、

あまりにもおゆうとは違い過ぎていた・・・

めでたい事だからと祝い酒を出そうとすると

おゆうは酒が嫌いだからと断られ・・・

では煮物と焼き魚だけの食事だが用意したから食べてくれと勧めると、

今から二人だけで料亭で食事して帰るからと断られ・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

結局は体を売って稼いで来た水商売の身内が迷惑な存在であることを

二人の顔付で理解したなみは、酒をあおり、

「ぐずぐずしてないで帰りなよ。

いかにも、あたしゃ、男に身を売って生きて来た女さ。

友吉だって、いまとなっちゃこういう身内が迷惑なんだ。

おまえらの前に顔を出さなきゃいいんだろ。安心しな。」

と啖呵を切る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


三十四の女が、たった一人残されちゃったねと思った・・・

人っ子一人見えないさびしげな道に、ぽつんと立っている自分の姿が見えた。

その姿はこっちに背をむけて、方途に迷っているようでもある・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


愚痴を言ってもどうにかなるわけでもなく、

現実を受け入れ、なだめすかしてやっとここまで生きて来たなみにとって

生き甲斐を失った喪失感の大きさをどのように折り合いをつけたら良いのか。

弟が姉に対して、これまでの苦労をねぎらう言葉や態度であるなら・・・

と読みながら何度も思いました。

物語として読むのではなく、現実としてもこのような報われない思いや

状況はあるだろうなぁ・・・と思いながら・・・



しかし、この物語は、ここで終わらない。

なみが弟友吉と娘が挨拶に来るとの事でお酒やおかずを買っているときに、

今年初めてのつばめを見て、「何かいい事がある」と思っていたことが、

実は弟の事ではなかった・・・

自分の幸せを考えずに生きて来たなみにも、

本当の意味での幸せがやって来ることになるのです・・・





プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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