藤原 伊織 「テロリストのパラソル」

ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、
新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。
その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。
死傷者五十人以上。
島村は現場から逃げ出すが、
指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。
テロの犠牲者の中には、
二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。
島村は容疑者として追われながらも、
事件の真相に迫ろうとする――。
小説史上唯一、乱歩賞&直木賞ダブル受賞作!
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藤原さん初めてのハードボイルド作品で
江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞したんですねぇ。
このダブル受賞は今でも藤原さんお一人だそうです。
11年前に胃がんで59才で亡くなった藤原伊織さん。
大好きな作家さんのお一人です。
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出だしが良いです。
すぐに登場人物への興味が湧く書き出しは
藤原さんホント上手いです。
藤原さんの作品はセリフと会話が素敵です。
今回の作品は学生運動を共に闘った
今はアル中の島村と友人桑野と
共に愛した優子の3人の物語になっています。
テロリストになってしまった桑野。
女性活動家で島村の恋人だった優子。
爆弾を作った桑野が
島村の運転する車で事故を起こしてしまい
爆発してしまいます。
被害者は警察官とその息子。
警察官は死亡。息子は桑野が身を挺して助けます。
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学生運動をしていた事もあり
爆弾を作成した桑野と島村は共謀したと
指名手配になります。
そこから桑野と島村の逃走人生が始まります。
桑野はフランスへ逃亡。
島村は名前を変えひっそりと暮らす日々。
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島村が偶然遭遇した爆弾事件により
指名手配の身で捕まる事は必定。
誰が何の目的で事件を起こしたのか。
小さな糸口からの事件解明が計算されています。
スピードと謎解きの面白さでぐいぐい惹きこまれます。
島村も桑野も優子も東大出身。
昭和世代の島村のアナログの要素が
更に面白さを醸し出します。
昭和の不便さがハードボイルドに似合います。
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「テロリストのパラソル」と言う題名が
いったい何を示すのかと思っていたら
最後の方で何とも素敵なシーンが登場して、
あぁ~本当はこんな風に過ごしたかったのだなぁと
若かった頃を回想するような表現が出てきます。
学生運動とその後のそれぞれの人生。
物語に政治的要素も含まれ
当時を知る人には思い入れを感じるかもしれません。
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また世代を超えて、
爆弾事件の犠牲となり亡くなった優子の娘の塔子が
島村に協力します。
島村に対する手厳しい行動に時々クスっとしたりと
とても魅力的な女性です。
塔子が島村に言います。
「なぜ母があなたに恋したのか分かるわ」
というセリフで二人のこれからも匂わせます。
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全共闘世代の一人が言います。
「これが宿命なんだよ、きっと。
これがあの闘争を闘ったぼくらの世代の宿命だったんだ。」
島村がきっぱりと言います。
「私たちは世代で生きてきたんじゃない。
個人で生きてきたんだ」
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登場人物も多く、からくりを紐解く細かさから
一気読みを推奨いたします。
いつもありがとうございます

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