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安住 洋子 「夜半の綺羅星(よわのきらぼし)」

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何回読んだことか…

何回読んでも心に染みる作品です。

継父との不和、弟妹が生まれ、

自分の居場所を失い、

実家を飛び出した達造。

岡っ引の親分の下で事件の為に走り回る。

実家が火事で一家全員が、惨殺…

一人生き残った女中のおたえを支えて

事件解決に奔走。

身近にいた人物と実家惨殺の関わり…

辛く悲しい事件と並行して、

達造が岡っ引として成長していきます。

装丁が大変美しい本です!

安住さん、なかなか新刊出さないので、

再読再読で楽しんでいます(^^)




いつもありがとうございます

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安住 洋子 「夜半の綺羅星(よわのきらぼし)」


夜半の綺羅星 (小学館文庫)夜半の綺羅星 (小学館文庫)
(2007/10)
安住 洋子

商品詳細を見る



老舗の紙問屋の跡取りとして生まれた達造。

しかし、祖父、父が相次いで病死。

婿に入った継父とは不和。

弟妹が生まれ、居場所を失う。

子守奉公のおたえとの交流だけが、心の支え。

だが、やはり家に居づらく出奔。

庶民からは「犬」と疎まれる目明しの下っ引きになるが、

持って生まれた真摯さはなくしていない。

事件が起こる。

仲間の下っ引きが殺されたのだ。

犯人を追ううち、実家が火付け盗賊に遭い、

一家は惨殺、家は焼失の憂き目に。

女中のおたえだけが生き残る。

非運にもめげず、闇に潜む悪を追う達造だが…。

裏長屋の住民たちの人情や、

下層に生きる仲間たちとの交流を通して、

大きく成長していく一人の男の半生を描く、

感動の時代小説。

前作『しずり雪』の続編とも言える物語。

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佐喜蔵の夜泣きが収まった頃、
お光もまた夜泣きがひどくなり、
おたえは夜中に一人家を出て近くの聖天稲荷で
夜明けまで過ごすことがあった。

おたえがそっと開ける潜り戸の音を聞き、
達造は後を追いかけたことが何度かある。
朝までお光をあやしながら一人で過ごすなど、
幼いおたえには心細いだろうと思うと
足が自然に動いた。

「坊ちゃんは戻って下さいまし。
明日も手習いがありますし」
しかし、達造は朝まで一緒に付き合っていた。
灯りが消えた江戸の夜は闇に包まれていた。
聖天稲荷の境内の木々は、
大きな神社や寺に比べれば僅かなもので大木もない。
それでも闇の中、風に揺れている様は子どもにも落ち着かない。
夜空よりも黒く揺れている。
空を見上げた方が気が晴れる。
空には、一面星が輝いていた。

「降ってきそうだよ」
おたえも背にお光を揺らしながら顔を上げた。
おんぶ紐で首を絞められそうになりながら、
息を呑み見上げている。

「すごい数」

「江戸にいる人と同じくらい多いな」
この夜空の星が江戸に住む人ならば、
もうこの中には父と祖父はいないと、
達造はふと考える。
こんなに数え切れぬくらいの星が煌めいているというのに、
父も祖父もいないのだ。

「おたえと俺の星もあるのかなぁ」
夜空の闇に目が慣れてくると、
星はその数を増していく。

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悲しい生い立ちの「おたえ」。

五歳で達造のお店に子守り奉公にあがる。

五歳で奉公ですものねぇ・・・。

苦労しどうしのおたえの健気さが大変魅力的です。

おたえが達造を支えていなければ、

達造は、単なる下っぴきで荒れていたでしょう。

心根が優しくしっかりした達造の眼は、

後におたえと所帯を持ってからも十手を預かる岡っぴきとして

町の人々に信頼されるようになります。

安住洋子さんの描く物語は大好きです!



いつもありがとうございます

安住 洋子 「しずり雪」




1999年第三回長塚節文学賞短編小説部門大賞受賞!

安住洋子
 1958年兵庫県尼崎市生まれ。
大阪信愛女学院短期大学卒。
学習塾で国語科教材作成に携わる。
現在サンフランシスコ在住。


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しずり雪

寒月冴(さ)える

昇り龍

城沼の風


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安住さんの物語は、共通して

やりきれなさと悔恨を土台に

日々をぎりぎり乗り切る人々が描かれています。

どうしようもない事をあきらめるかふんばるか・・・

守り・勝ち抜き、それぞれが最低限の暮らしでも何とか

生きていけるよう賭けにも似た姿が描かれています。



また自分の事だけで悩み苦しむのではなく、

家族・友人・はては全くの他人の為に

自分を犠牲にしてまで奔走する姿に、

芯の強さと底力を感じ、励まされる思いと、

決して不幸で終わらせない安住さんの小説に

せつなさを感じつつも希望を感じとりました。


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しずり雪とは・・・

樹々に積もった雪が陽光を受けてしずり落ちること。


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「しずり雪」


一人で死んでいったのか、作次・・・

雪の重みでしなっていた椿の枝が

身震いするように跳ね上がり、雪が舞った。

孝太の顔に雪がかかる。

脳裏に幼い顔の笑顔の作次や、

遠慮気味に裏店にやってきては上目遣いに窺っていた作次が、

浮かび上がってくる。

孝太は感覚のなくなった手を握りしめ、

堪えきれずに嗚咽した。

顔を上げると、

枝から絶え間なく雪がこぼれ落ちていた・・・



安住 洋子 「日無坂(ひなしざか)」

【送料無料】日無坂

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価格:1,470円(税込、送料別)




親と子のすれ違い

謎解きが感涙に変わる・・・


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非常に読みやすい小説です。

初めの方は、切ない少年期の伊佐次が描かれています。

どんなに頑張っても出来て当たり前で、父親に認めてもらえず、

薬種問屋の跡取りとして厳しくしつけられます。

父親は婿の為、亡くなった嫁の母親に大変気を使い、

母親の手前、厳しく冷たい目で伊佐次に接します。

弟の栄次郎は、体が弱く頼りないですが、

素直で甘え上手の為、祖母は栄次郎ばかりを可愛がります。

伊佐次は、父親に愛情を期待しますが、受け入れてもらえず、

青年期にぐれてしまい、とうとう勘当されてしまいます。

勘当されてからの伊佐次は、当時の遊びで世話になった

賭場の親分の所で働き始め、後の後継者と噂される程にまでなり、

頼りにされる存在になってしまいますが、

親分が余命わずかとなり、亡くなった後は、

自分は足を洗って、江戸から離れる心づもりでいました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんな中、勘当された実家の父親が亡くなったと知らせが・・・

前日の夜に、偶然「日無坂」で見かけた父親は、

悲愴な顔をしており、すれ違っても息子に気づくことはありませんでした・・・

そして・・・次の日には川に落ちて亡くなったとの知らせが・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


伊佐次は、父親の亡くなり方に疑問を持ちます。

前日の夜、父親とすれ違った後に、

見知らぬ狐顔の男が父親の後を追っていたからです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


父親は同業の薬種問屋の大店から、

妙薬と言われる高価な「龍氣散」を仕入れるよう勧められており、

断れない付きあいの為仕方なく仕入れていました。

しかし、成分に疑問を持った父親は、一人調べており、

結果・・・

効き目の効果が見られない成分で調合されていることが判明・・・

それを大店に覚書として提出した矢先の父親の死・・・

父親は消されたのではないか・・・


また、偶然日無坂で尾行していた狐顔の男が

すれ違った伊佐次の事を知っており、

父親と結託しているのではないかと疑い、

伊佐次も狙われることに・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


伊佐次は、父親の無念を晴らすべく

犯人探しに奔走します。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


父親に叱られても謝らない程の頑固な少年だった伊佐次。

実は、自分の思いが伝わらない事で、

言葉に出来ず、口をつぐんでしまっていただけでした。

素直ではないと祖母になじられ、ますますかたくなになる少年伊佐次・・・

その頑固さゆえ、父親への反発を勘当されるというところまで

ひきずってしまい、離れて暮らすことになりましたが、

心の中では、いつも何かしら、父親・弟を気にしていました。

賭場の借金で息子と女房をおいて逃げた男の家に行った際には、

父親に捨てられた幼い子供の目を見て、

自分の幼い時の事を思い出し、

子供を奉公させて欲しいと、

将来の面倒を弟の栄次郎に託します。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


弟栄次郎は、伊佐次が勘当された後、正式に跡取りとして

父親と店をやるのですが、兄と違い優柔不断で、覚えも悪く、

父親に、将来を不安視されていました。

しかし、父親が亡くなった事で、栄次郎もしっかりと自覚し

成長していきます。

兄の伊佐次に対しては、江戸を離れず、自分たちをいつまでも

見守って欲しいと願い出ます。

伊佐次と栄次郎の正反対の人間性も興味深く描かれています。

男ぶりも良い伊佐次ですが、

この物語の中では、女性の存在は一切描かれていません。

めずらしいですね。

ですので色っぽいシーンは皆無です。

好きだ嫌いだ、ホレたはれたという

恋愛物をあまり読まない自分としては、

好みの物語でした。





プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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