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向田 邦子 「父の詫び状」


父の詫び状 <新装版> (文春文庫)父の詫び状 <新装版> (文春文庫)
(2005/08/03)
向田 邦子

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宴会帰りの父の赤い顔、母に威張り散らす父の高声、
朝の食卓で父が広げた新聞…
だれの胸の中にもある父のいる懐かしい家庭の息遣いを
ユーモアを交じえて見事に描き出し、
“真打ち”と絶賛されたエッセイの最高傑作。
また、生活人の昭和史としても評価が高い。
航空機事故で急逝した著者の第一エッセイ集。


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祖母が「お父さんから手紙が来てるよ」というのである。
巻紙に筆で、いつもより改まった文面で、
しっかり勉強するようにと書いてあった。
終わりの方にこれだけは今でも覚えているのだが、
「此の度は格別の御働き」という一行があり、
そこだけ朱筆で傍線が引かれてあった。
それが父の詫び状であった。

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父は昔の人間としては体も大きく、
野球やピンポンは子供たちが束になってかかっても
かなわなかったが、自転車だけは駄目だった。
関東大震災の時、
逃げる時は友人の自転車を借りて逃げたが、
返す段になったらどうしても乗れない。
仕方がないので一日がかりでかついで返しにいった
と言う人である。
自分が不得手だったせいか、
女の子が自転車に乗ることをひどく嫌った。
「あれは女が乗るものじゃない。
どうしても乗りたいのなら
自動車か馬に乗れ」

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暗い不幸な生い立ち、
ひがみっぽい性格。
人の長所を見る前に欠点が目につく父にとって、
時々、間の抜けた失敗をしでかして、
自分を十二分に怒らせてくれる母は、
何よりの緩和剤になっていたのではないだろうか。
「お母さんに当たれば、
その分会社の人が叱られなくてすむからね」
と母はいっていた。

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いつもありがとうございます


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向田 邦子 「愛という字」 


愛という字 (文春文庫)愛という字 (文春文庫)
(1996/09)
向田 邦子

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意外なきっかけで知り合った男は画家だった。
繊細な指、しゃれた服装、そして胃を病んでいる。
丈夫で平凡なサラリーマンの夫とは何から何まで違っていた。
魅力的な男の出現に揺れる微妙な女心を描いた表題作の他、
温かくてちょっとホロ苦い向田ドラマの秀作
「びっくり箱」「母上様・赤沢良雄」を収録。

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1.びっくり箱

「お母ちゃん、それでいいの、寂しくないの」

「もともと一人だもの。
一日ミシンガタガタやってりゃ、何とか生きてゆけるよ」

とし江は気丈に応えた。
しかし厚子は、とし江の瞳に浮かぶ哀しみの色を見逃さなかった。
淋しさとあきらめ・・・。
つい最近同じ表情を見たような気がした。
どこだったか。
そう考えた時、厚子はハッと息をのんだ。
小塚やすの遺影、あの表情である。
女が女であることをあきらめた時、
その表情は何と暗く悲しく見えるものか。

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2.母上様・赤澤良雄

「うちの正一ったらね、一番おしまいの手紙に
『日本へ帰って、おっかさんと一緒にカエルの声を聞きたいです』って・・・」

しまはハッとして、仏壇の中の遺影に目をやった。
供えたばかりの白菊の花陰から、うら若い特攻隊員が、
しまに向かってテレくさそうな微笑みを投げかけている。
形の良い口許からほんの少しこぼれた歯が、
白菊よりも白く清々しく見えた。


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3.愛という字

「初めて聞いた色の名前だから、新鮮に聞こえたのね。
パープルレーキは、とりレバーの色・・・
モーブは、うちの庭に咲くスミレの色だわ。
毎日の暮らしの中にあったのよ」

直子は、睫毛を瞬いて、雨の雫を払った。

「・・・・そうかもしれないな。
病院で僕の手首をつかんだあの力は、愛だなんて言ったけど、
『空巣』と間違えて、僕の手首をつかんだときの方が、
強かったかもしれない」

「・・・・・」

「ご主人への愛の方が強かったわけだ」

「物欲じゃないかしら。女はケチだから・・・」

守田は苦笑すると、直子も自嘲の笑いを浮かべた。
雨が激しくなっている。

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いつもありがとうございます

向田 邦子 「思い出トランプ」

思い出トランプ (新潮文庫)思い出トランプ (新潮文庫)
(1983/05)
向田 邦子

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浮気の相手であった部下の結婚式に、妻と出席する男。

おきゃんで、かわうそのような残忍さを持つ人妻。

毒牙を心に抱くエリートサラリーマン。

やむを得ない事故で、子どもの指を切ってしまった母親。

日常生活の中で、誰もがひとつやふたつは持っている弱さや、

狡さ、後めたさを、人間の愛しさとして捉えた13編、

直木賞受賞作「花の名前」「犬小屋」「かわうそ」を収録。


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「犬小屋」が面白かったです。


かっちゃんは、三日にあげず顔を出すようになった。
お見舞いと称して、白身の魚を持ってきては、
景虎に食べさせていた。
恐縮する達子の母に、残りものだから、
好きでやっているのだから、と言い訳を言い、
「大丈夫。わたはちゃんと抜いてありますよ」
食べさせる前に必ず見せに来た。
現金なもので、犬はカっちゃんになつき、
アラを入れる石油カンを持った彼の姿が見えると、
大人の腕ほどもある太い尻尾を、
犬小屋の羽目板に打ち付ける音が、
茶の間にいても聞こえるほどだった。


話題がと切れて、じゃあそろそろ、
と言われるのがこわい、といった風に、
引っ切りなしにしゃべり、煙草に火をつけた。
煙草が煙を立てている間は、
お開きにしましょうと言われない事を知って、
そうしているように思えた。

こういうとき、カッちゃんの目は笑っている癖に
泣きべそをかいているようにみえた。
泣きべその目で、カッちゃんは犬地図のはなしをした。
誰かの受け売りらしいのだが、
犬には犬地図というのがあるという。
これは人間の考える地図とは全く別のもので、
どことどこの電柱と垣根にはおれの匂いをつけてある。
どこにいじめっ子がいて、
どこにご馳走をくれるうちがあり、
どこに憧れの牝がいるか、
ちゃんと頭の中に描いてあるのだ、としゃべった。

「犬地図ねぇ」と呟いた母に、
「ありゃ自分のことだな」
父は、よく判っているようであった・・・。




いつもありがとうございます。

向田 邦子 「寺内貫太郎一家」


寺内貫太郎一家 (新潮文庫)寺内貫太郎一家 (新潮文庫)
(1983/03)
向田 邦子

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口下手で怒りっぽいくせに涙もろい、
日本の愛すべき“お父さん"とその家族をユーモアとペーソスで捉え、
きめ細かな筆致で下町の人情を刻み、
東京・谷中に暮す庶民の真情溢れる生活を描いた幻の処女長編小説。

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こういうホームドラマ小説良いですよねぇ。
向田邦子さんのお父さんがモデルだそうです。
昭和の家族風景が懐かしく憧れますね。
笑えて、ホロッと泣けて、ほっこりの物語ばかりです。

ドラマもとっても面白かったですよねぇ。
頑固親父が小林亜星。
いたずら好きのいじわるばあさんが樹木希林。
優しいお母さんが加藤治子。
小さい時に怪我で足を引きずるようになった長女が梶芽衣子。
二浪の息子に西城秀樹。
お手伝いさんが浅田美代子。

ドラマまた観たくなったなぁ。



いつもありがとうございます。

向田 邦子 「あ・うん」   2013.12.8(日)


あ・うん (文春文庫)あ・うん (文春文庫)
(2003/08)
向田 邦子

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 つましい月給暮らしの水田仙吉と
軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長門倉修造との間の友情は、
まるで神社の鳥居に並んだ
一対の狛犬阿、呍(あ、うん)のように親密なものであった。
太平洋戦争をひかえた世相を背景に
男の熱い友情と、親友の妻への密かな思慕が織りなす
市井の家族の情景を鮮やかに描いた著者唯一の長編小説。

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社長である門倉には、女性関係が多く、
二号さん、三号さんもいる。
二号さんとのには子供も出来る。
本妻さんとの間には子供がいない。
時代だなぁと思うのは、周りも二号さん三号さんに対しても
おおらかである事。
こんなに女性関係が多い門倉だが、
とても優しくて思いやりのある人物。
親友仙吉の妻「たみ」を密かに想い続けている事は、
周り全員が知るところなのに、いやらしさがない。
門倉がおせっかいを焼き過ぎ、
仙吉の妻たみに叱られる事を、
この上なくうれしく感じる門倉。
飾らない「たみ」の人柄がこの物語の一番の魅力と思いました。



いつもありがとうございます。

向田邦子 「冬の運動会」

冬の運動会 (文春文庫)冬の運動会 (文春文庫)
(1998/01/10)
向田 邦子

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高校時代の万引事件のため
エリート家庭から落ちこぼれた菊男は、
ガード下の靴修理店の老夫婦のもとに
入りびたっていた。
そんなある日、ふとしたきっかけから、
菊男は謹厳な祖父や、
一流ビジネスマンの父の
もうひとつの姿を知ってしまう・・・

人間の本質と家族のあり方を追求して
話題を呼んだ名作ドラマの小説化。

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1977年1月放送されたテレビドラマ。

志村喬・木村功・加藤治子・赤木春恵・市原悦子・

大滝秀冶・いしだあゆみ・根津甚八・藤田弓子・風吹ジュン・・・

そうそうたるメンバーでのドラマだったんだなぁ・・・。

今、こういうドラマやってくんないかな・・・。

昭和40年代頃にさかのぼった雰囲気の

ドラマ映像も見たいものだ。



蝶が舞うリースの時計
プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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