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高田 郁 「あきない世傳金と銀③」

無題
大坂天満の呉服商「五鈴屋」の女衆だった幸は、
その聡明さを買われ、店主・四代目徳兵衛の後添いに迎えられるものの、
夫を不慮の事故で失い、十七歳で寡婦となる。
四代目の弟の惣次は「幸を娶ることを条件に、五代目を継ぐ」と宣言。
果たして幸は如何なる決断を下し、どのように商いとかかわっていくのか。
また、商い戦国時代とも評される困難な時代にあって、
五鈴屋はどのような手立てで商いを広げていくのか。
奔流に呑み込まれたかのような幸、
そして五鈴屋の運命は?大好評シリーズ、待望の第三弾!


・・・・・・・・・・・・・・・・・

一巻と二巻も読んだはずなのですが、おぼろになってしまい

イマイチどんな物語だっけ?と思い出しながら読みましたが、

それだけなんとなくモヤっとする今回のシリーズと感じています。

なんかちょっと幸が良すぎないか?

ここぞっていう時のポイントやアイデアを出し過ぎ。

控え目にしていながらなぜか幸の思う方向へ導くわけなんですが・・・

しかもどうしても幸のキャラクターがはっきり目に浮かんで来ません。

18~20歳になった幸が大変な美貌となっているのは分かるのですが、

そういう事じゃないんですよね。

物語としての幸の成長が見たいわけなんですよね。

夫婦となった惣次と幸の寄り添う愛情が老舗店成長の為だけって感じ。

残念な事ばかり言っちゃって~申し訳ないですm(__)m

何だかんだ言いながらも次巻も読むでしょう(^^)

頂いた図書カードで買った本なのに文句言ってすみません(^^)m(__)m



いつもありがとうございます
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高田郁 「あきない世傳金と銀②」

無題


齢9才で大阪の呉服問屋の下働きに奉公した「幸」の成長物語なんですが、

要は「あかんたれ」や「細腕繁盛記」系なんですね。

下働きで終わず、跡継ぎ長男の後添えとして

今度は「ご寮さん」としての人生が始まります。

時に14歳。

心も体も少女のままで廓(くるわ)狂いで商才もないバカ旦那と結婚させられ、

苦労と不幸を若くして背負うんですが、

幸にとってはそんな事は承知の上で

どのようにしたら店を盛り立てていけるかという商売に対する向上心が勝ります。

この先幾度も困難が待ち受けますが、

持前の機転の良さと誠意ある心根で

どんな風に切り拓いて行くのか楽しみな物語となっています。

バカ旦那をバカで描き通す事には賛否あるかと思います。

個人的には、さっさとバカを排除して

次のステップへ持って行きたいのかなぁと感じちゃって少し残念に思っています。

幸だけが困難ではなくバカ旦那はバカ旦那なりの心の闇もあったはず。

そこまで描いたら昼メロよろしくくどくなるかな・・・。

次回からの幸の自ら動く流れに期待したいと思います。

【「知恵は、何もないとこからは生まれしまへん。知識、いう蓄えがあってこそ、絞りだせるんが智恵だすのや。商いの知恵だけやない、生き抜くためのどんな知恵でも、そないして生まれる、と私は思うてます。せやさかい、盛大に知識を身につけなはれ」番頭の言葉のひとつ、ひとつを胸に刻んで、幸は大きく頷いた。】




いつもありがとうございます

高田 郁 「あきない世傳(せいでん) 金と銀 源流篇」

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物がさっぱり売れない享保期に、
摂津の津門村に学者の子として生を受けた幸。
父から「商は詐なり」と教えられて育ったはずが、
享保の大飢饉や家族との別離を経て、
齢九つで大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出されることになる。
慣れない商家で「一生、鍋の底を磨いて過ごす」女衆でありながら、
番頭・治兵衛に才を認められ、徐々に商いに心を惹かれていく。
果たして、商いは詐なのか。


・・・・・・・・・・・・・・・・

「商いは、『買うての幸い、売っての幸せ』が信条やて、
私はいつも言うてますやろ?」


・・・・・・・・・・・・・・・・

智恵は、生きる力になる。
智恵を絞れば、無駄な争いをせずに、
道を拓くことも出来る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

「悪いことして、流を乱す奴も居る。
洪水もあれば渇水もある。
けれど、真っ当な問屋も小売も、
それを生業に生きるさかい、
誰の汗も無駄にせんように心を砕く。
それでこそ、ほんまもんの商人だす。」

・・・・・・・・・・・・・・・・

暖簾というのは、単に屋号を染めた布ではない。
弛まぬ精進により礎が築かれ、
長きにわたって信用や信頼を寄せられるもの。
言わば、その店の魂そのものだ。
ならばこそ、商人は何よりも暖簾を重んじ、
暖簾に傷がつくことを、ああまで恐れるのだ。
そうした暖簾に対する信用こそが、
紙にまでも金銀と同じ値打ちを与えるのだろう。


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みをつくし料理帖シリーズは、みをの料理を通しての成長物語。

今回の新シリーズでは、「幸(さち)」が呉服商に9歳で奉公に入り、

女子衆(おなごしゅう)として台所や雑用仕事に明け暮れる日々から、

商売というものに対する心構えを勉強して成長する物語。

まだ9歳という幼い幸にとっては辛い日々のはずも、

店主の祖母や番頭、三男の智蔵に目をかけてもらうことにより、

探究心の強い幸は商いについて真剣に勉強し励む事ができます。

個人的に、みをつくしでも感じましたが、

今回も大阪弁の語り口なので、少々頭に入りにくく、

スムーズに読めないのがもどかしいです。

ストーリーとしてはこの先が何となく想像がつくような、

いわゆる、「よくある物語」の流れです。

それでも幼い幸のこれからの成長ぶりが楽しみな物語となっています。




いつもありがとうございます

高田 郁 「天の梯(そらのかけはし) みをつくし料理帖」最終巻


天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-12 時代小説文庫)天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-12 時代小説文庫)
(2014/08/09)
高田 郁

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『食は、人の天なり』――医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて懊悩する日々。四千両を捻出し、野江を身請けすることは叶うのか! ? 厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさとは! ?「みをつくし料理帖」シリーズ、堂々の完結。

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その昔、天満一兆庵では、年に二回の藪入りの際、奉公人に重詰を持たせて帰した。中身は、明石の干し蛸を用いた蛸飯と、上等の真昆布を佃煮にしたものだ。常は質素を旨とする奉公人たちにとって、出汁を引く前の乾物を用いた重詰は充分に贅沢だった。そして主の嘉兵衛は、その重詰のひとつ、ひとつに「心許り(こころばかり)」の一筆を添えていた。店のために良く尽くしてくれている。その謝意を奉公人の家族に伝えるためだった。

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斬られたあさひ太夫の安否を尋ね、その正体が野江だと打ち明けた弥生。
野江との関わりを、惷樹暮雲、と例えられた葉月。
武家に嫁いで料理を手放すか否か、悩み苦しんだ神無月。
料理番付から落ちて、消えてしまいたい、と願った師走。

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高田郁「みをつくし料理帖」最終巻。

とうとうこれで完結。

それにしても「澪(みお)」の苦難に対する前向きさと

アイデアでの勝負が素晴らしい。

料理とは滋養。

見栄えや高価な材料で作るものより

人の体に良いものを作る事を信念としている澪に軍配があがる。

人気シリーズに多くの人が感動した事と思います。


いつもありがとうございます

高田 郁 「美雪晴れ みをつくし料理帖 ⑨」

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
(2014/02/15)
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名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された芳。

悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、

漸く訪れた幸せの兆しだった。

しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。

どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい―。

一方で澪も、幼馴染みのあさひ太夫こと野江の身請けについて、

また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた…。

いよいよ佳境を迎える「みをつくし料理帖」シリーズ。

幸せの種を蒔く、第九弾。

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「干し芋茎を使うのもそうだし、

時には魚のあらも青物の皮までも上手に利用して

美味しい食べ物に変え、

食べる人の心と身体を健やかに保とうと心がける。

例えば、母親が我が子を丈夫に育てたい、と願う。

あるいは医師が患者を健やかにしたい、と願う。

あなたはそんな気持ちを併せ持った料理人です。

『食は、人の天なり』という言葉を体現できる稀有(けう)の

料理人なのです。

私からすれば、あなたほど、揺るがずに、

ただひとつの道を歩き続けるひとは居ない。」

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いつもありがとうございます

高田 郁 「残月 みをつくし料理帖 ⑧」   2014.1.16(木)


残月 みおつくし料理帖 (ハルキ文庫)残月 みおつくし料理帖 (ハルキ文庫)
(2013/06/15)
高田 郁

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吉原の大火、「つる家」の助っ人料理人・又次の死。

辛く悲しかった時は過ぎ、澪と「つる家」の面々は新たな日々を迎えていた。

そんなある日、

吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる家」を訪れた。

あさひ太夫と澪の関係、

そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。

澪の幼馴染み、あさひ太夫こと野江のその後とは―――(第一話「残月」)。

その他、若旦那・佐平衛との再会は叶うのか?

料理屋「登龍楼」に呼び出された澪の新たなる試練とは・・・・・。

雲外蒼天を胸に、料理に生きる澪と「つる家」の新たなる決意。

希望溢れるシリーズ第八弾。


・・・・・・・・・・・・・・・・

「塩のあてかたにも、紙塩、立て塩、振り塩、撒き塩、

と色々あるの。

料理の味を決めるにも塩はとても大切で、

例えば『塩梅(あんばい)』と言う言葉は、

塩と梅酢が出会うと双方の味が丸くなり、

味わいが増すことから来ているのよ」

・・・・・・・・・・・・・・・


「この齢になってわかることだが、

残された者が逝っちまった者のために出来ることは、

そう多くは無ぇのさ。

中でも大事なのは、心配をかけないってことだ」

店主の言葉に、ふきは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

種市は湯飲みの中身をぐっと干して、少女に向き直った。

「そのひとを大事に胸に留めて、毎日を丁寧に生きようじゃねぇか。

身の回りの小さな幸せを積み上げて、なるたけ笑って暮らそうぜ。」


・・・・・・・・・・・・・・・

赤や黄、橙や茶、飴色など、樹木が彩りの衣を纏う(まとう)季節となった。

お裾分け(おすそわけ)か、色付いた葉がひとびとの頭上にはらはらと降り、

一陣の風に絡め取られる。

神保小路の日蔭に吹き寄せられた落ち葉が、今朝は白っぽく見えた。

じっと目を凝らせば、薄く霜が降りて凍えている。

道理で寒いはずだわ、と澪は小さく身震いして、

無防備な両の手に息を吹きかける。

吐いた息は一瞬、白く凍り、僅かに掌を湿らせてすぐに消えた。

・・・・・・・・・・・・・・

「子の幸せと親自身の幸せを混同しないことです。

いっぱしに成長したなら、子には自力で幸せになってもらいましょうよ。

そして、親自身も幸せになることです。

ひとの幸せってのは、銭のあるなし、身分のあるなしは関係ないんです。

生きていて良かった、と自分で思えることが、何より大事なんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・

「秋に蒔かれて芽吹いた麦は、冬の間、こうして雪の下で春を待つのです。

陽射しの恩恵をじかに受けるわけでもなく、

誰に顧みられることもない。

雪の重みに耐えて極寒を行き抜き、やがて必ず春を迎えるのです。

その姿に私は幾度、励まされたか知れない」

・・・・・・・・・・・・・・・

柳吾は外の陽射しに見入ったあと、改めて、強い志の宿る瞳を芳に向けた。

「亡くなった嘉兵衛さんへの想いもあるでしょう。

気持に区切りをつけることは難しいかも知れない。

けれど、私はそうした想いも全て受け止めて、

あなたというひとと生きていきたいのです」

ゆっくりと、柳語は畳に両手をついた。

「芳さん、どうか、私のもとにいらしてください。

あなたが受けてくださるまで、この命のある限り、待たせて頂きます」

耐え切れず、芳は顔を覆って泣いている。

その姿が昨夜の芳の後ろ姿と重なった。

これまで幾度も幾度も、芳の涙を見てきたけれども、

今の涙はこれまでのものとは全く違う。

澪にだけはわかることだった。

泣き続ける芳に腕を差し伸べて、澪はその背中を撫でる。

ご寮さん、どうぞ幸せになっておくれやす。

・・・・・・・・・・・・・・・

澪・芳・ふき・種市・・・

それぞれの方向性が具体的になって来ます。

澪のさらなる料理人としての旅立ちの決意。

芳の幸せ。

ふきの料理人としての成長。

そんな周りの者を寂しくも覚悟の上で見守り背中を押す種市。

まだまだ試練はやって来るも、

澪の料理人としての迷いはなく、

先を観る目と常なる精進が潔いです。


いつもありがとうございます。

高田 郁 「夏天の虹 みをつくし料理帖 ⑦」   2014.1.15(水)

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))
(2012/03/15)
高田 郁

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想いびとである小松原と添う道か、

料理人として生きる道か…

澪は、決して交わることのない道の上で悩み苦しんでいた。

「つる家」で料理を旨そうに頬張るお客や、

料理をつくり、供する自身の姿を思い浮かべる澪。

天空に浮かぶ心星を見つめる澪の心には、

決して譲れない辿り着きたい道が、はっきりと見えていた。

そして澪は、自身の揺るがない決意を小松原に伝えることに―

・・・・・・・・・・・・・・・・

「番付から外れたことで、

多くのひとを失望させてしまった・・・

澪さんは、そのことが何より辛いのでしょう。

ひとの想いを大切に扱うことは間違いではない。

けれど、その想いに押し潰されてしまわないでください。

料理人の本文は、

その喜びはきっと別のところにあるはずです。」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「嘉兵衛が亡うなって、お前はんを料理人として

導く者がおらんようになった・・・

そない思うてました。

けど、それは間違いやった。

神さま仏さまは、お前はんの才を潰さんよう、

折々に必要な助言をくれはるひとを用意してなはるんやなあ」

はい、と澪は頷き、ふっと目を伏せた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「恋を知って、澪さんの料理は変わりましたよ。

自分で気付きませんか?」

問われて澪は戸惑い、小さく頭を振る。

りうは、腕を伸ばし、皺だらけの手で澪の両の手を握った。

「澪さんの料理には、

祈りが籠(こも)っているのですよ。

食べるひとの幸せを心から祈る、

切ない祈りがね」

己の狡(ずる)さや、

情けなさばかりが心に突き刺さる拙(つたな)い恋だった。

それでも恋は無駄ではなかった。

涸(か)れたはずの涙が、

澪の双眸(そうぼう)から溢(あふ)れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

今回は、澪と小松原の哀しい恋の結末と

澪が料理人として致命的体調異変が起こるのと

月に三回手伝いに来てくれていた又次の悲しい最後と

次から次へと至難が訪れます。

中にはこういった不幸続きが

好きではない読者も多いと思います。

私も「またかよ・・・」派です。

それでも面白いと思うのは、

澪だけの物語ではなく、

周りの人々それぞれの物語も描かれていて、

澪はその人達一人一人から学んで成長しているからです。

その学んだ事を料理に活かし、人を助け澪自身が助けられます。

また、澪始め、登場人物達の個性がしっかり描かれていて、

ちょっとした表現が目に浮かび読んでいて楽しいです。

例えば、つる家での仕事が終わると澪と芳が帰るのですが、

時々遅くなったり天候が悪いと、つる家に泊まります。

そんな時は住み込みのふきが、

ぴょんぴょんとはねて喜ぶのですが、

何とも可愛らしい表現が目に浮かんで微笑ましいです。




いつもありがとうございます。


高田 郁 「心星(こころぼし)ひとつ みをつくし料理帖 ⑥」


心星ひとつ みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 時代小説文庫)心星ひとつ みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 時代小説文庫)
(2011/08/10)
高田 郁

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酷暑を過ぎた葉月のある午後、

翁屋の桜主伝右衛門がつる家を訪れた。

伝右衛門の口から語られたのは、

手を貸すので吉原にて天満一兆庵を再建しないか、との話だった。

一方登龍楼の采女宗馬からも、

神田須田町の登龍楼を、居抜きで売るのでつる家として移って来ないか、

との話が届いていた。

登龍楼で奉公をしている、ふきの弟健坊もその店に移して構わないとの事に、

それぞれが思い揺れていた。

つる家の料理人として岐路に立たされた澪は決断を迫られる事に――

野江との再会、小松原との恋の行方は!?


・・・・・・・・・・・・・・・・


「今は丸いあのお月さんも、

明日からまた徐々に身を削がれて、

晦日には消えてしまう。

けど、時が経てば少しずつ身幅を広げて、

またあの姿に戻る。

ひとの幸せも、

似たようなもんやろなあ」

・・・・・・・・・・・・・・・・


つる家は本当に良い常客に恵まれた、

と澪はつくづく思う。

昔、天満一兆庵の嘉兵衛から教わったことだが、

何かを美味しい、と思うのは、

ただ料理の味のみで決まるものではない。

どんな場所で誰と食べるか、

というのも大いに味を左右する。

見知らぬ者同士が料理をきっかけに話したり、

ほかのお客の会話に相槌をうったりして、

和やかな雰囲気の中で食べるものは、

いずれも美味しく感じるものだ。

・・・・・・・・・・・・・・・


「与えられた器が小さければ、

自分の手で大きくすりゃあ済むことですよ」


・・・・・・・・・・・・・・・


「土の上に生るものはお湯から、

土の下にできるものはお水から茹でる、

と覚えておけば便利ですよ」

「では、里芋や大根、牛蒡は水からですね。」

・・・・・・・・・・・・・・・・



いつもありがとうございます。

高田 郁 「小夜しぐれ みをつくし料理帖 ⑤」   2014.1.13(月)


小夜しぐれ (みをつくし料理帖)小夜しぐれ (みをつくし料理帖)
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高田 郁

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>季節が春から夏へと移ろい始める如月のある日。

日本橋伊勢屋の美緒がつる家を訪れ、澪の顔を見るなり泣き始めた。

美緒の話によると、

伊勢屋の主・九兵衛が美緒に婿をとらせるために縁談を進めているというのだ。

それは、美緒が恋心を寄せる医師、源斉との縁談ではないらしい。

果たして、美緒の縁談の相手とは!?――(第三話『小夜しぐれ』)。

表題作の他、つる家の主・種市と亡き娘おつるの過去が明かされる『迷い蟹』、

『夢宵桜』、『嘉祥』の全四話を収録。

恋の行方も大きな展開を見せる、書き下ろし大好評シリーズ第五弾!!

・・・・・・・・・・・・・・・


あれこれと考え出せば、道は枝分かれする一方だ。

良いか、道はひとつきり・・・

すっと心の重石が外れる。

澪は両の腕を広げて、胸一杯に春の空気を吸い込んだ。

そう、与えられた場所で一心に精進を重ね、

料理に身を尽くす、という生き方を貫けば良い。

そうすることで、きっと道は拓ける。

今はそう信じよう。

・・・・・・・・・・・・・・


昔から、働き過ぎで精根尽きた時には、

大根や昆布、蒟蒻や蓮根など

「こん」の付くものを摂ると良い、と言われている。

それに加えて滋養のある玉子と消化に良いお粥を

合わせるのだ、と澪は娘に教えた。

・・・・・・・・・・・・・・・


「見目形の美しさはもとより、

教養の高さ、機転、そして度胸。

どれひとつ欠けることのない、

まさに太夫と呼ぶのが相応しい。

澪さんの幼馴染の野江さんは、

ただ運命に翻弄されるだけではない、

自ら運命を切り拓いていく強さをお持ちです」

・・・・・・・・・・・・・・・




いつもありがとうございます。

高田 郁 「今朝の春 みをつくし料理帖 ④」  


今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)
(2010/09/15)
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月に三度の『三方よしの日』、

つる家では澪と助っ人の又次が作る料理が評判を呼び、

繁盛していた。

そんなある日、伊勢屋の美緒に大奥奉公の話が持ち上がり、

澪は包丁使いの指南役を任されて―――(第一話『花嫁御寮』)。

戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作を書くことになった。

少しずつ明らかになってゆくあさひ太夫こと野江の過去とは

―――(第二話『友待つ雪』)。

おりょうの旦那伊左三に浮気の疑惑が!? 

つる家の面々を巻き込んだ事の真相とは―――(第三話『寒紅』)。

登龍楼との料理の競い合いを行うこととなったつる家。

澪が生み出す渾身の料理は―――(第四話『今朝の春』)。

・・・・・・・・・・・・・・・・


どんな時にも乱れない包丁捌きと味付けで、

美味しい料理を提供し続ける。

天賦(てんぷ)の才はなくとも、

そうした努力を続ける料理人こそが、

真の料理人

・・・・・・・・・・・・・・・


あのかたは、私にとっては、

御膳奉行の小野寺さまなどではなく

浪士の小松原さま。

これからも、ひとりの娘としてではなく、

つる家の料理人として、

時折りあのかたがお客として

ここに来られるのを待っていられたら、

それで充分です。

口にする料理であのかたを健やかに保ち、

お守り出来るなら、それで・・・。

脳裡に浮かん小松原の母の面影に、

詫びるように澪にそっと呟いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・


あの水害さえなければ、澪は塗師(ぬし)の娘として

慎ましく育ち、おそらく今頃は職人の女房となり、

子の母となっていただろう。

また野江は淡路屋の末娘として何不自由なく暮らし、

同じく大店の若旦那のもとへ嫁いでご寮さんに

おさまるに違いなかった。

それが、あの天災を境に、

片や天涯孤独の身となり江戸で女料理人として生き、

片や、吉原へ売られて遊女として生きることとなってしまったのだ。

詮無いことだが、水害さえなければ、

と思わずにはいられない。

・・・・・・・・・・・・・・・・


「あんた、よう覚えときなはれ。

今度あさひ太夫に関わったら地獄を見ますで」

焦点の合わぬ濁った眼を向ける女衒(ぜげん)に、

澪はゆっくりとこう言い添えた。

「次は助けへん。

それどころか、

私のこの手ぇでお前はんを三枚に下ろしたるさかいに」

・・・・・・・・・・・・・・


「白雪の色わきがたき梅が枝に友待つ雪ぞ消え残りたる・・・

と、古い歌に詠まれています。

あとから降る雪を待って、

まだ消え残っている雪のことを、

そう呼ぶのですよ」

昔のひとは美しい心を持っていますね、

と言い残して源斉は帰って行った。

・・・・・・・・・・・・・・



いつもありがとうございます。

高田 郁 「想い雲 みをつくし料理帖 ③」   2014.1.11(土)


想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)
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高田 郁

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土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に

頭を悩ませていた。

そんなある日、戯作者・清右衛門が版元の坂村堂を連れたって

「つる家」を訪れる。

澪の料理に関心した食堂楽の坂村堂は、

自らが雇い入れている上方料理人に是非この味を思えさせたいと請う。

翌日、さっそく現れた坂村堂の料理人はなんと、

行方知れずとなっている、天満一兆案の若旦那・佐兵衛と共に

働いていた富三だったのだ。

澪と芳は佐兵衛の行方を富三に聞くが、

彼の口から語られたのは耳を疑うような話だった・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

<主な登場人物>

澪:幼い日、水害で両親を失い、大阪の料理屋「天満一兆庵」奉公。  
  今は江戸の「つる家」で腕をふるう若き料理人。

芳:もとは「天満一兆庵」のご寮さん(女将)。
  今は澪とともに暮らす。
  行方知れずの息子、佐兵衛を探している。
  澪の食材を手に入れる為に宝物の簪を売って手助けする。
  後に種市が簪を取り返してくれるが・・・さらに失う事に・・・

種市:「つる家」店主。
   澪に亡き娘つるの面影を重ねる。
   亡き娘が、かどわかされ亡くなったのは
   自分が博打で家族をないがしろにした為との自責の念があり、
   澪を娘として、ふきと健坊を孫のように可愛がる。

ふき:「つる家」の下足番の少女。
   弟の健坊は「登龍楼」に奉公中。
   澪を実の姉のように、芳を母親のように慕う。
   りうばあさんを恐れている。(歯がないのに何でも食べるから)

おりょう:澪と芳のご近所さん。
     「つる家」を手伝う。
     夫は腕のよい大工伊佐三、子は太一。
     太一は火事で両親を失い、おりょう夫婦に引き取られる。
     声を出せない。

小松原:謎の侍。
    辛口ながら澪に的確な助言を与える。
    澪の想い人。

永田源斉:御典医・永田陶斉の次男。
     自身は町医者。
     大店の娘「美緒」から想われ、婿にと請われるも、断る。

采女(うねめ)宗馬:澪と対抗している高級料理屋「登龍楼」店主。

野江:澪の幼馴染み。
   水害で澪と同じく天涯孤独となり、
   今は吉原「翁屋」であさひ太夫として生きている。
   澪がつる家を火事で失った時に、野江が又次を通し、
   十両を出して再起の援助をする。

清右衛門:売れっ子戯作者。
     澪の料理を褒めるも皮肉も忘れない「つる家一」のお客。

りう:ふきを紹介した口入屋の店主の母親。
   若いころに料理屋で働く経験あり。
   「つる家」を手伝いながら客あしらいと適格な助言に
   何度も澪は助けられる。
   一本も歯がないが、歯茎だけで固いせんべいもバリバリ食べる。
   
美緒:大店の我がままお嬢様。
   町医者源斉に片思い。
   大奥に見習い奉公する為、澪に料理を教えてもらう。

又次:吉原「翁屋」花魁の野江に尽くす料理人。
   野江と澪の仲を取り次ぐ役目。
   澪に頼まれ月に三回「つる家」を手伝う。  

・・・・・・・・・・・・・・・・


澪ちゃん。

澪を呼ぶ、その声。

耳に残る幼い声とは違う。

なのに、切なくなるほどに懐かしく感じる。

澪は奥歯を噛みしめて涙を堪える。

白狐は被っていた面を少しだけずらした。

切れ長の美しい目が笑っている。

漆を刷いたように潤んだ黒い瞳。

ああ、やっぱり野江ちゃんや。

そう言ったつもりが声にならない。

涙が双眸から吹き出して、澪は堪らず野江に縋った。

脳裏に、あの夏の大阪の光景が蘇る。

ともに渡った天神橋。

新町、花の井。東横堀川に刻まれる水紋。

幸福な情景の中で、幼い野江と澪とが笑っている。

逢いたかった、ずっと逢いたかった。

ずっとずっと、逢いたくて、逢いたくて。

野江ちゃん。

・・・・・・・・・・・・・・・・・


遠く離れて生きる友ふたり。

片や、春に芽吹く樹を眺めて相手を想い、

片や、日暮れの雲を見て相手を想う・・・

眼下、遊里にぽつぽつと灯が入り始めた。

あの何処かに野江が居て、

同じ雲を見上がているのだ。

彼方から、澪の名を呼ぶ野江の声が、

確かに耳に届いた・・・。




いつもありがとうございます。

高田 郁 「花散らしの雨 みをつくし料理帖 ②」   2014.1.11(土)


花散らしの雨 みをつくし料理帖花散らしの雨 みをつくし料理帖
(2009/10/15)
高田 郁

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元飯田町に新しく暖簾(のれん)を掲げた「つる家」では、

ふきという少女を下足番として雇い入れた。

早くにふた親を亡くしたふきを、

自らの境遇と重ね合わせ信頼を寄せていく澪(みお)。

だが、丁度同じ頃、神田須田町の登龍楼で、

澪の創作したはずの料理と全く同じものが

「つる家」よりも先に供されているという。

はじめは偶然とやり過ごすも、

さらに考案した料理も先を越されてしまう。

度重なる偶然に不安を感じた澪はある日、

ふきの不審な行動を目撃してしまい・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

ふきには幼い弟健坊がいます。

両親を亡くし幼い弟を守る為に取ったふきの行動は、

実は奉公先である「登龍楼の料理長」からの命令でした。

ふきは「もういやです」と奉公先の料理長に言うと、

殴る蹴るの暴力をされます。

事情を知った澪が登龍楼の店主に直談判します。

店主は全く知らない事で驚き、澪に手をついて謝罪します。

店主は不始末を起こした料理長とふきを辞めさせます。

弟と離れたくないふきは懇願しますが、

両親の多額の借金の為に奉公せねばならず、

弟は登龍楼に残り、ふきは澪の店で働くことに。


「健坊」

姉ちゃん、と男児もふきに縋る(すがる)。

健坊、ごめんね、ごめんね、とふきは幼い弟を抱き締めた。

連れて行けなくてごめんね、とふきはそればかり繰り返す。

「姉ちゃんもしっかり働くから。

だから辛抱して待っていて」

亡父の残した借金が、

自分たちふたりを雁字搦め(がんじがらめ)にしていることを、

幼いながら理解しているのだろう。

弟は、小さな拳を握り締めて必死で耐えている。

澪は腰を屈め、健坊の顔を覗き込んだ。

「藪入りが来たら、お姉ちゃんを迎えに寄越すから、

つる家へいらっしゃい。

それと、時々、健坊の様子を見に来れるようにするから」

他にどうにもしてやれない切なさを押し隠して、

澪は優しく健坊の頬を撫でた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・


野江だ、野江があそこに居るのだ。

澪はその場で背伸びをして、

中を覗こうとしたが果たせなかった。

・・・泣いてへんか、

野江の言葉が蘇って、澪は無理にも奥歯を噛み締めて

涙を堪える。

野江ちゃん。

思いきりその名を呼びたい。

あの部屋へ駆け込みたい。

どれも叶わぬことだけれど、

せめて今は、涙を見せまいと、と澪は奥歯をきつく、

きつく噛みしめた。

・・・野江ちゃん、私、泣いてへんよ。もう泣かへんから

せめてそれだけを伝えたくて、

澪は、咄嗟に右の指を狐の形に結んだ。

そして、野江の居るだろう二階座敷へ向けて、

その手を差し伸べる。

涙は来ん、来ん。

胸の中で唱えながら、幼い日、そうしてたように空で振ってみせる。

涙は来ん、来ん。

その刹那。

障子の隙間から、そっと白い腕が差し出された。

夜目にも真っ白な細い女の左腕。

その手の先が狐の形に結ばれる。

・・・涙は来ん、来ん

まるでそう囁くように、細い手が弱々しく振られた。

澪の双眸から堰を切ったように涙が溢れ、頬を伝い落ちる。

それを拭うこともせずに、

澪は自分も狐に結んだ手を振り続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・


「食べるというのは本来快い(こころよい)ものなんですよ。

快いから楽しい、だからこそ、

食べて美味しいと思うし、身にも付くんです。

それを『食べなきゃだめだ』と言われて、

ましてや口に食べ物を押しつけられて、

それで快いと、楽しいと思えますか?」

こんな当たり前のことに、

どうして気が付かないんでしょうかねぇ、

と、りうは歯の無い口をさらに窄めて(すぼめて)みせる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・




いつもありがとうございます。

高田 郁 「八朔(はっさく)の雪 みをつくし料理帖①」   2014.1.9(木)


八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)
(2009/05/15)
高田 郁

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神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」

店を任され、調理場で腕を振るう澪(みお)は、

故郷の大阪で、少女の頃に水害で両親を失い、

天涯孤独の身であった。

大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、

天性の味覚と負けん気で、

日々研鑚を重ねる澪。

しかし、そんなるある日、彼女の腕を妬み、

名料理屋「登龍楼(とりゅうろう)」が非道な妨害をしかけてきたが・・・

料理だけが自分の仕合せへの道筋と定めた澪の奮闘と、

それを囲む人々の人情が織りなす、

連作時代小説の傑作ここに誕生!

・・・・・・・・・・・・・・・

母わかは倹しい(つましい)暮らし向きの中にあって、

旬の食材を取り入れた手を抜かない料理を作った。

春は蕗(ふき)と若布(わかめ)の炊き合わせ、

夏は冬瓜(とうがん)の葛(くず)ひき、

秋は小芋の煮ころがし、

冬は風呂吹き大根、等々・・・

それを父伊助の塗った漆器と箸とで食べさせてくれた。

父の漆と、母の料理とが澪の舌を育てたのだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

半日ほど水に浸けておいた昆布をその水ごと火にかけて、

沸騰する前に昆布を引き上げる。

そこへ削り立ての鰹節を入れ、

ゆっくりと十かぞえて火から離す。

削り節が沈んだら布巾で濾す(こす)。

それが、幾度も修練を重ねて、

澪が見つけた合わせ出汁の引き方であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・
<とろとろ茶碗蒸し>

「玉子が滋養になるのは明々白々。

海老は老化による体力の衰えに効くのですよ。

百合根は心身を健やかに保つ。

銀杏は肺を丈夫にし、咳を鎮めるのです。

この椀の中には、健やかさを保つ秘訣がぎっしり詰まっています。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

八朔の雪?

と首を傾げて(かしげて)いる澪に、

源斉がふっと頬を緩めた。

「八月朔日(ついたち)に吉原の遊女たちが

白無垢を着ている情景を『八朔の雪』と言うのです。

残暑厳しい季節に雪を思わせる風情から、

そう呼ぶのでしょうね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この吉原の遊女が、実は澪に大きなかかわりがある人でした。

そしてその遊女のお蔭で澪は救われ、

困難を乗り越えて行きます。

澪は下がり眉の決して美人ではない18歳の少女ですが、

素直で健気で情が深い。

澪の周りには貧しく、悲しい事情を抱えた人々がいますが、

料理を通してみんなが澪の周りに集まり、助け合います。

質素な素材をもお店の看板料理にしてしまう澪の手腕が

大変面白いです。

巻末には、澪が考えた料理のレシピを載せています。




いつもありがとうございます。


高田 郁 「出世花」   2014.1.3(金)


出世花 (ハルキ文庫 た 19-6 時代小説文庫)出世花 (ハルキ文庫 た 19-6 時代小説文庫)
(2011/04/15)
高田 郁

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不義密通の大罪を犯し、

男と出奔した妻を討つため、

矢萩源九郎は幼いお艶を連れて旅に出た。

六年後、飢え凌ぎに毒草を食べてしまい、

江戸近郊の下落合の青泉寺で行き倒れたふたり。

源次郎は落命するも、一命をとりとめたお艶は、

青泉寺の住職から「縁」という名をもらい、新たな人生を歩むことに―――。

青泉寺は死者の弔いを専門にする「墓寺」であった。

直に死者を弔う人びとの姿に心打たれたお縁は、

自らも湯灌場を手伝うようになる。悲境な運命を背負いながらも、

真っすぐに自らの道を進む「縁」の成長を描いた、

著者渾身のデビュー作、新版にて刊行!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「正念さまのこの手が、私の父を清めてくださいました。

骸(なきがら)だけではなく、父の抱いていた無念を洗い流し、

その魂を清らにして浄土に旅立てるようにしてくださったのです」

「この手が」正念は、苦しみの中で言った。

「この手が、信吉を手にかけて殺めようとした」

「私の父もまた、自身の妻と不義の相手とを殺めようとしておりました。

その一念で六年を過ごし、この地で力尽きて果てたのです」

お縁は正念の手を握り締めた。

温かい、大きな手だった。

「この手、正念さまのこの手こそが、

父の無念を洗い流してくださったのでございます。

私にとっては尊い、何よりも尊い手です」

お縁の言葉に、正念の双眸から熱い涙が溢れ出した。

堪えきれず、お縁に手を包まれたまま、彼は顔を覆った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「出世花」「落合蛍」「偽り時雨」「見送り坂暮色」

の4編の中でも、「偽り時雨」が特に好きです。

「惚れた女のため、惚れた女のためなんだ、正縁さん、

俺を髪切り魔に仕立てることで、

惚れた女が抜き差しならない状態から

浮かび上がれるなら、それで本望なんだ・・・」

聞こえるはずのない岩吉の声が、お縁の耳元に届く。


とてもせつない物語でした・・・

人から化け物と避けられて来た岩吉と正縁ことお縁との約束・・・

自分が死んだらお縁の手によって清めて浄土へ見送ってほしい・・・

その約束が、ある事件の濡れ衣を着せられる事によって、

あまりにも早い時期にやって来てしまいます・・・。

お縁の岩吉に対する湯灌の清め方に泣けます。



いつもありがとうございます。

高田 郁 「みをつくし献立帖」   2014.1.1


みをつくし献立帖 (ハルキ文庫 た 19-9 時代小説文庫)みをつくし献立帖 (ハルキ文庫 た 19-9 時代小説文庫)
(2012/05/15)
高田 郁

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大好評「みをつくし料理帖」シリーズで登場した料理を
あなたのご家庭に!!

「はてなの飯」「ありえねぇ」など、
本編ではご紹介出来なかったレシピを初公開。
澪がつくりだす料理を著者自らが完全再現。

また、つる家の間取り図や書き下ろしエッセイなど
余すところなく収録。
そして、ここでいか読めない、澪と野江の幼き日の思いでを描いた
書き下ろし短篇小説「貝寄風(かいよせ)」を
特別収録した豪華なレシピ本。

・・・・・・・・・・・・・・・

写真付きのレシピと、印象的なセリフも載せています。

「雪見鍋」「蓮根の射込み」「蕗の青煮」などなど・・・

きゅうりとタコと針生姜の酢の物が「ありえねぇ」というんですねぇ。

当時のお店の間取りも描いていて興味深いです。

お盆に乗せた料理を長床几に置き食べていたそうです。

体をひねったり、床几に足を折ったり、床几を跨いだりと、

自由な体制で食べていたそうです。



「料理に向かう時は、

胸に陽だまりを抱いていようと思う。」

(澪「想い雲」)より




いつもありがとうございます。

高田 郁 「銀二貫」   2013.12.25


銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)
(2010/08/05)
高田 郁

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大阪天満の寒天問屋の主・和助は、
かたき討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。
大火で焼失した天満宮債権のための大金だった。
引き取られ松吉と改めた少年は、
商人の厳しい躾と生活に耐えていく。
料理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、
松吉は新たな寒天作りを志すが、
またもや大火が町を襲い、
真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・

「人にはそれぞれ決着のつけ方、いうものがある。
刀で決着をつけるのはお侍。
算盤で決着をつけるのが商人。
刀で命の遣り取りして決着をつけるのが侍なら、
知恵と才覚とを絞って商いの上で決着をつけるのが商人なんや。
お前はんがしようとしたんは刀を振り回すのに似てる。
商人にとって一番恥ずかしいのは、
決着のつけ方を間違うことなんやで」

刀で命の遣り取りをして決着をつけるのは侍。
知恵と才覚を絞り、商いの上で決着をつけるのが商人。
和助のこの言葉が、松吉の胸を貫いた。

・・・・・・・・・・・・・・・

思えば、自分は偶然の出会いによって、
今日まで生かされてきた。
仇討ちの場で斬り殺されるところを和助に救われた。
同じ丁稚として出会った梅吉は、恐らく生涯を通じての大切な
友となるだろう。
天神橋の上で巡り逢った真帆、
その父親の嘉平、二人に寒天の世界を広げてもらった。
半兵衛に出会うことで糸寒天が生まれた。
あれほど自分を忌み嫌っていた善次郎が、
今は信頼を寄せてくれている。
そうしたこと全てが、今は偶然というよりも、
天の配剤に思えた。
目には見えない大きな存在に守られ、
生かされているのだ。
これが和助の言う、大阪商人の大切にする
「神信心」なのだとも思う。




いつもありがとうございます。

高田 郁(かおる) 「漆喰くい(しっくいくい)」

きずな―時代小説親子情話 (ハルキ文庫 ほ 3-2 時代小説文庫)きずな―時代小説親子情話 (ハルキ文庫 ほ 3-2 時代小説文庫)
(2011/09/15)
宮部みゆき 池波正太郎 髙田郁 山本周五郎 平岩弓枝

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細谷正充編「きずな」の中の一遍です。

今にもつぶれそうな百姓家に住む「ふみ」と母親「いね」
病気の母親の為に「豆腐」を買い求めるが、
百姓は豆腐を作る事も食べる事も禁じられていた。
それでも母親に食べさせたい一心で、
ふみは豆腐屋の女将に懇願する。
女将は「豆腐」がダメなら、豆腐になる前の段階を
食べさせる事を思いつき、ふみに作り方を教える。

豆腐と名付けてはいけない。
人においしそうだと悟られてもいけないから、
不味そうな名前にしなさいと言われたふみは、
人に騙されて食べた「漆喰」のまずさを思いだし、
「漆喰食い」と名付ける。

毎日毎日母親の為に作った漆喰食いのお蔭で、
母親はすっかり回復する。
村で病人が出れば皆に漆喰食いを作るふみ。

後に、代官所に呼び出されるふみ。
廻りの大人がみんなでふみを庇い、
「これは豆腐ではない」と言う。

庄屋の久左衛門は、

「ここにおりますふみが漆喰食いを作るのは、
どれも病人のためでございます。
また、村の者も、
漆喰食いは命の薬として病の時にしか
口にしません。
そうやって中落村の百姓は身体を養い、
農作に励むことが出来るのです。
なればこそ、
今年もまた無事に年貢を納めさせて頂けるのでございます」
とお代官様に言う。

お代官様は、

「忠義の心は武士のみにあらず、か」

と言い、ふみの縄を解きほぐすのでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・

豆腐一つのお話ですが、
とても貴重な話を聞かせて頂いたと思いました。
豆腐の作り方も書いていました。
とても温かくなる読後感です。
それにしても百姓が豆腐を食べる事がご法度と言うのも
厳しい事情でしたね・・・。

ふみの母親を思う気持ちが、ほろっとします。

豆腐に必要な「にがり」って、
海水を煮詰めたものなんだそうですね。
皮膚病に効くそうですね。
なるほど~・・・



蝶が舞うリースの時計
プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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