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水上 勉 「櫻守(さくらもり)」

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四十八歳で生涯を終えるまで、

ひたむきに桜を愛し、

桜を守り育てることに情熱を傾けつくした

庭師:北 弥吉の物語。

実在の櫻守学者が竹部として登場し、

弥吉と共に生涯櫻守をします。

大正生まれの弥吉。

戦争を経て地道に頑固に

櫻を愛し守り続けました。

48歳で膵臓ガンで亡くなります。

最後の言葉は

「海津の共同墓地へ埋めてくれ。

あそこの桜は立派な八重桜。

毎年、守りにいっていた。

たのむ・・・」

時代的に共同墓地は

地元の人しか墓に入れませんでした。

弥吉の意向を寺の住職にお願いすると

住職は快諾し、埋葬の日、

雨の中、村人が何人も来てくれて

弥吉の墓穴を掘ってくれました。

櫻守学者の竹部が言います。

「人間、死んでしまうと、なあんも残らしまへん。

この世に何も残しません。

けど、じつは一つだけ残すもんがあります。

それは徳ですな・・・

人間が死んで、

その瞬間から徳が生きはじめます。

弥吉さんを桜の根へ埋めたげようという

村の人らも、わたしらも、

弥吉さんの徳を抱いておるからこそやおへんか。

これが大事なこっとすわ。」

桜を守り通す事の凄まじい意気込みと命がけの愛。

竹部と弥吉への尊敬の思いで読み終えました。

現在もこの櫻守は後継者が頑張って下さっています。

・・・・・・・・・・・・・

我が家にも守ってくれている存在がおります。

櫻守ならぬ「本守」の黒メイさんです(^^)

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いつもありがとうございます
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水上 勉 「ブンナよ、木からおりてこい」

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童話です。

とのさまカエルのブンナが、

得意の跳躍力で高い木のてっぺんに登った所から

物語が始まります。

居心地の良い隠れ家と思っていた所は、

鳶の餌の貯蔵庫でした。

ブンナが木の穴に隠れていると、

鳶が半死半生の雀や百舌やヘビや

ネズミや牛ガエルを連れて来ます。

それぞれの動物は、

鳶の餌にされるまでのわずかな時間に、

それぞれの個性をむきだしにして、

後悔したり、懺悔したり、

自分だけ生きようと闘争したり、

そのことを反省したり、

生きることをあきらめたりと

様々な姿をブンナに見せます。

一匹一匹と鳶に連れ去られて行く中で、

最後に残ったネズミが

隠れているブンナに言います。

「動物はみな弱いものを食って生きる以上、

だれかの生まれかわりだ。

きみがぼくの死んだあと、

腐った体からとび出る羽虫を食ったら、

ぼくの生まれかわり。

元気になって地上へおりて、

おふくろや仲間に会ってくれ…」

ブンナが地上に降りて仲間に伝えます。

「ぼくらカエルは、

みんな何かの生まれかわりなんだ。

自分の命というものは、

誰かのおかげで生きてこれたんだ。

ぼくらの命は、大勢の命の一つだ。

だから、誰でも尊いんだ。

辛くて、悲しくても、生きて、

大勢の命の架け橋になるんだ…」

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水上勉さんは教育について語っています。

「こんにちの学校教育は、

人並みの子にするというよりも、

少しでも、他の子に勝る子に仕上げようとする親の願いを

引き受けているようなところがあって、

子は、ひたすら学習で明け暮れている。

いったい誰が人並みでいることを悪いと決めたのか。

生きとし生けるもの全て太陽の下にあって、

平等に生きている。

凡庸に生きることが如何に大切であるかを、

親は先ず自分の心の中で抱き取って、

子供に話して欲しい。」

親に読んでほしい童話。

そして親が子供に朗読して欲しい童話だそうです。


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いつもありがとうございます

水上 勉  「父と子」

水上勉父と子上




水上勉父と子下



高校で担任教師を小刀で刺してしまった息子と

児童本販売商売が

うまくいかない父親との二人旅を通して、

学校とは、社会とは何か、

そして現代の人間の生き方を問う物語。

物語は東北訛りで語られています。

父親竹一の育った環境は

「オンボー」と言われた

世間から格下に見られる仕事をしていました。

竹一の両親は、

今で言う所の「焼き場」いわゆる「火葬場」で

遺体を焼く仕事をしていた事で、

差別に遭います。

時代は約半世紀前の田舎の価値観。

人の嫌がる仕事を

貧しいながらも必死に全うした両親の元を

弟に任せて逃げるように東京に出て来た竹一。

結婚生活もうまくいかない中、

息子が担任の先生を刺してしまったと

連絡が入ります。

平謝りに謝る父親竹一ですが、

息子高志の言い分を聞くと、

理不尽な担任と校長の教育方針に、

無理に学校へ行かなくて良いと、

その日から息子と車での旅に出ます。

心を閉ざす息子高志と、

父親竹一の生まれ故郷で過ごす事で、

お互いの殻を破り男同士として語り合います。

父親竹一の弟妹達それぞれの人生を聞く事、

故郷で暮らす人々との触れ合いで教えられる事で、

息子高志は自分が犯した事件に対して向き合い

逃げる事なく将来の思いを決めます。

また父親竹一への苦労が理解できた事で

男として父親として尊敬するのでした。

作中、父親竹一の姉の百合が言います。

「親ってものは、

親の建前だけで苦しむ馬鹿なもんだ。

本音を言えばさっぱりするものを、

子供の年ごろは、お父やお母に反抗してたくせに、

自分のことは棚にあげて、

都合の良い建前で、

子を引き寄せようとしたって、

子はごまかしは見抜くだべさ…」

今の教育は、

聞き分けの良い子を育てようとしている。

上に立つものが役に立たない者だったら

どうするのか。

そんな役立たず者の為に

言いなりになる教育は間違いである。

自分をしっかり見つめ、

自分のやりたい本当の姿で

自立すべきだと語っています。




いつもありがとうございます

水上 勉 「その橋まで(上・下)」

その橋まで(上)
殺人犯として刑に服し、17年ぶりで娑婆に出てきた名本登。
仮釈放を許され、自由の身になったとはいえ、
彼は厳重な保護観察を受けなければならず、
どんな微罪でも犯せば最後、たちまち刑務所に逆戻りだった。
地道な木工職人として社会復帰の道を踏み出した彼には、
しかし、ひょっとした成り行きから、婦女暴行殺人の容疑がかけられる……。
犯罪者の更生の苦しみを描く問題作。


・・・・・・・・・・・・・・・

その橋まで(下)
名本の幼なじみが連れこみ宿で死んでいた事件に続いて、
今度は、モーテルの近くの山中で若い女が縊死体で発見されるという
謎の事件が起こった。
保護観察所の庇っている仮釈放者が、
仮面をかぶって犯罪を重ねているのではないか――
警察は前科者の名本に対する疑惑を深め、執拗に追及する。
<犯罪>の虚実を探り、
獣性と仏性をふたつながら内包する人間のかなしみを描く社会小説。


・・・・・・・・・・・・・・・・

「何とかして、世間の人と交わりたい、
連帯をもって生きてゆきたい・・・
それが、あの男のねがいですがなも。
・・・警察は、それを、むざんに断ち切りよるとですッ」


・・・・・・・・・・・・・・・・

「世の中がたいへん汚れているということですが、
日本国じゅうで、いちばん、わるいことをしない人間が
生きているのは、刑務所ではないかという気が
しないではございません・・・
世の中には、人間をとり戻すために、
刑務所へ入る人もいます。」


・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぼくだって、この世で鼻つまみの親爺をもってきました。
それで、ぼくは立派に育てばよかったのですが、
人殺しまでしました。
しかし、ぼくのやった犯罪には、
父のことはまったく無関係だったと思います。
ぼくという人間がダメだった。
そのような父をもっていても、
立派な真人間に育ってゆかなかった。
星の下もわるかったけれど、
その運命を切りひらく勇気がなかった。
いま、そのことを痛感しています。」


・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぼくは、シャバよりも刑務所の方が、
ぼくの生きる場所のような気がしてきました。
どうぞ、刑務所長さんにお願いしてみて下さい。
ぼくは、今日からもうシャバへ出たくありません。
シャバは、とても、ぼくのようなものが
生きてゆける所ではないとわかりました。」


・・・・・・・・・・・・・・・

確かまだ十代の頃に読んだ長編小説だったのですが、

作者も題名も忘れて、長いこと探していた本でした。

書店に立ち寄る度に「あ」行の作家から記憶にピンと来るまで

度々眺めていたのですが、どうしても見つけられませんでした。

ところが、つい最近隣りの市に出来た市立図書館で

何気なくいろいろな作家さんの全集シリーズを眺めていて、

本当に何気に水上勉さんの全集の一巻を手に取り、

ページをめくった途端に・・・

「これだッ!!」と分かりました。

すっかり題名を忘れていたのに、

出だしを読み出して記憶が蘇りました。

こんなうれしい瞬間て久しぶり!

早速借りようかと思ったのですが、

大好きな小説なので、

永久保存にしようと思いネットで購入しました。

大変難しいテーマの小説で、

この物語には実在のモデルとなった人がいるそうです。

犯罪者の更生と付きまとう罪の陰。

時代は50年程前の話なのですが、

犯罪や世間の価値観が現在とほとんど変わらないのが少々驚きでした。

罪を償い更生し世間との折り合いをとり戻しながら

生きて行こうと頑張っても受け入れてくれない社会・・・

それでも更生しようとする人の為に諦めない保護司もいる。

答えが出ない問題を描いています。

終盤の主人公である名本登の言葉が心に残りました。

「結論として、一ど犯罪をおかしたぼくらのような者の
生きてゆく場所は、結局、刑務所しかない、
という気がしたのです。
社会は、ぼくたちを、あいかわらずの罪人とみている。
警察の方がいわれたように、
菌を保持している病人なのです。
ふつうの社会人とちがうのです。
社会が温かく迎えるはずがありません。
再犯者は、みなその社会のつくり出したものに
ほかなりません。
ぼくは、つまり、このような社会で、
ぼくを疑う警察官や雇い主との気まずい関係を保ちながら、
自分の調整をして生きてゆくのに疲れました。」




いつもありがとうございます

水上 勉 「五番町夕霧楼」


五番町夕霧楼 (新潮文庫)五番町夕霧楼 (新潮文庫)
(1966/04)
水上 勉

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京の遊郭に娼妓となり、西陣の織元の大旦那に水揚げされながらも、
かつて故郷の寒村に薄幸の日々をともに送った不遇な学生との愛にいきて行く
貧しい木樵(きこり)の娘夕子。
しかしその胸はいつか病魔に蝕まれ(むしばまれ)、
夏の闇夜に炎上する国宝建造物鳳閣とともに、
悲恋は終わりを告げる。
色街のあけくれに、つかのまの幻のようにゆらめくはかない女のいのちを
描き胸に迫る珠玉(しゅぎょく)の名編。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一年前に、夕子が三左衛門につれられて、鼠いろにかすんだ
経ケ岬をうしろに遠ざけながら、
京の五番町夕霧楼へゆくといって、
二人の妹といっしょに歩いた道である。
崖の裾は荒波が音をたてていたが、
風のふきあげてくる白い一本道は静かだった。
蜩(ひぐらし)が鳴いていた。
父娘(おやこ)が墓地を下り切ると、
夕子の背中へいつまでも花が散った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつもありがとうございます
プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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