新作3篇をひっさげて、茂七親分が帰ってきた!
茂七とは、手下の糸吉、権三とともに
江戸の下町で起こる難事件に立ち向かう岡っ引き。
謎の稲荷寿司屋、超能力をもつ拝み屋の少年など、
気になる登場人物も目白押し。
鰹、白魚、柿、菜の花など、
季節を彩る「初もの」を巧みに織り込んだ物語は、
ときに妖しく、哀しく、優しく艶やかに人々の心に忍び寄る。
ミヤベ・ワールド全開の人情捕物ばなし。・・・・・・・・・・・・・
1.お勢殺し
2.白魚の目
3.鰹千両
4.太郎柿次郎柿
5.凍る月
6.遺恨の桜
7.糸吉の恋
8.寿の毒
9.鬼は外
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深川富岡橋のたもとに、かれこれ十月ほど前から、
稲荷寿司屋が屋台を出している。
正体の定かでない、茂七と同年配の親父がひとりで切り回し、
稲荷寿司だけでなく椀物焼き物まで客に出し、
しかもそれがなかなかな料亭では太刀打ちできないようないい味だ。・・・・・・・・・・・・・・
「このあいだ、猫が盗っていったかもしれない新巻鮭一尾のことで、
やれ示しがつかないの、やれ奉公人に抑えがきかないのは
自分に重みがないからだの、きりきり尖っている松太郎さんを見ていたら、
急に、ああこの人はもう自分とは縁のない、別人になってしまったんだなと
思えてきたんだそうです。
そうしたら、一生陰に回って尽くしていっこうと思っていた自分の心が、
急に痩せたような気持ちになって、
後先考えずに河内屋を飛びだしてしまったそうですよ」・・・・・・・・・・・・・・・
梶屋の勝蔵とこの親父とは、血のつながりがあるのではないか。
年格好から言って、
ひょっとしたら兄弟なのではないか。
だがそのことを、口に出して問うてみる機会を、
まだ見つけることができないでいる。・・・・・・・・・・・・・・・
「俺もそう思うよ。
まだおっかさんが恋しい年頃に、
犬の子を追うように追い出されたのにさ。
都合が悪くなったら帰って来いと呼びつけられる。
三十年のあいだ、
おめえがつくってきた人生なんざ知っちゃいねえ、
今度はこっちで働け、
身代は継がせてやるんだから文句はねえだろう、
ときたもんだ」
言っているうちに腹が煮えてきた。・・・・・・・・・・・・・・・
「どうしたんだ」
茂七も半身を乗り出した。
寿八郎は身を固くして、畳の目を睨んでいる。
「こんなことを申し上げていいかどうか」
「そんなふうに迷う時は、
申し上げた方がいいと相場がきまっているもんだ」・・・・・・・・・・・・・・・
以前も別の文庫本で読んだのですが、
こちらの編集の方が読みやすくて良いと思いました。
所々にイラストが描かれているので、
人物像や話の流れが思い描きやすいと思いました。
表紙の絵がまんがチックで安っぽく見えたのですが、
手に取りやすくしているのでしょうねぇ。
登場人物が皆んな魅力的で、
ミステリアスな登場人物の正体が分かっていませんので、
次の巻が楽しみな小説となりました。
他の宮部さんの時代小説、続けて読んでみようかな(^^)
いつもありがとうございます