薬丸 岳(やくまる がく) 「逃走」

薬丸さんは、本当に読みやすいです。
読み始めたら一気に読了。
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家族の犯罪を抱えながら生きている兄と妹。
幼かった妹を小学生の兄が守り通します。
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母が父を殺害。
18年後刑期を終えた母は、
出所後も兄妹とは会わずに
ひっそりと暮らしていました。
あんなに仲が良かった両親。
母はなぜ父を殺したのか?
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長年の疑惑から、
兄が見つけた本当の殺害理由とは…
妹へ真実を語らず兄は疑惑を晴らそうとしますが、
自らが加害者となり逃走します。
母に会って真実を確かめる為に…
母が語る真実とは…
子供を守る為、
夫を守る為、
妻を守る為、
お互いがお互いを守る為、
一線を超えてしまった事とは…
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後半から一気に意外な方向へ行き、
最後までスピードを緩める事なく
読ませる薬丸作品でした。
いつもありがとうございます

薬丸 岳 「誓約」
薬丸 岳 「神の子 上・下」

分厚い文庫本で上下。
薬丸岳さんの読みやすさで厚さに挫折せず読了。
虐待され続けた町田。
殺人を犯す罪で少年院へ。
果たして町田が殺したのか…。
町田の人並外れた知能指数を利用しようと執着する
犯罪組織のムロイ。
人を寄せ付けない町田が唯一の
友であり、償いたい「ミノル」。
町田を通して多くの知人友人がそれぞれの人生を開いて行く。
町田の大切にしているものを破壊して行くムロイ。
ムロイとは何者なのか。
なぜ町田自体ではなく、
町田の周りを破壊するのか…。
キーワードは「ミノル」。
登場人物が多いですが混乱する事なくそれぞれの
関わりを描いているのはさすが薬丸岳。
だけどストーリーの終盤がイマイチ…
ミノルの描き方が不十分。
町田自体の謎の行動の謎解きが不十分。
薬丸岳作品が好きだけど
その中では星3つでした…。
いつもありがとうございます

薬丸 岳 「友罪」

あなたは“その過去”を知っても友達でいられますか?
埼玉の小さな町工場に就職した益田は、
同日に入社した鈴木と出会う。
無口で陰のある鈴木だったが、
同い年の二人は次第に打ち解けてゆく。
しかし、あるとき益田は、鈴木が十四年前、
連続児童殺傷で日本中を震え上がらせた
「黒蛇神事件」の犯人ではないかと疑惑を抱くようになり―。
少年犯罪のその後を描いた、著者渾身の長編小説。
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実際にあった少年犯罪の人物がモデルとして登場します。
その罪と償いで生きて行くことへの苦悩が描かれています。
身近に知り合った人が実は極悪な殺人犯だったとしたら?
自分は付き合っていけるのか?
自分自身も過去に同級生のいじめを見て見ぬふりをし
たった一人の親友の自殺を止めることが出来なかった。
同じ職場で働く仲間の中には、
昔AV女優として裏ビデオに出た過去のある事務員が、
当時の彼氏に執拗ないやがらせと脅迫を受けていたり、
毎夜泥酔する程の酒癖の悪い先輩は、
自分の息子が小学生3人を
バイクでひき殺してしまった過去があり、
家族がバラバラに・・・
今も苦しんでいる・・・。
それぞれの登場人物達の苦悩は、
家族・友人・世間との関わりに問いかけています。
果たして自分がその身になったらどうするか。
家族が加害者・被害者になったらどうするか。
本編では、最後に加害者への友人として、
手紙のように語りかけています。
その内容に読み手がどう受け止めるかも、
改めて問い掛けられているようでした。
難しい内容ですが、薬丸岳さんの滑らかな文章の流れに
結構厚い文庫本も一気読み出来ました。
いつもありがとうございます

薬丸 岳 「ハードラック」
![]() | ハードラック (講談社文庫) (2015/02/13) 薬丸 岳 商品詳細を見る |
二五歳にもなって
日雇い仕事すら失い、
「大きなことをするため」闇の掲示板で
四人の仲間を募った仁は、
軽井沢で起きた放火殺人の汚名を着せられてしまう。
なぜ俺を嵌めた?
信じられるのは誰なんだ?
手探りで真犯人を探す仁、
闇世界の住人たち、追う刑事。
物語は二転三転し、慟哭の真相へと向かっていく。
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あの待受け画面も仕込みだったということか。
待受け画面を見つめながら家族のことを語る芝田に、
一時でも同情した自分が馬鹿に思える。
「本当は電話になんか出ないでこのままシカトしてようかと
思ったんだけど、
きみがあまりにもおめでたくて哀れだからさ、
忠告してあげようと思ってね。」
「忠告?」
「言っただろう。
今の世の中は搾取する者と搾取される者に分かれるってさ。
立場の弱い・・・まあ、おれに言わせれば、
馬鹿な奴はいつも搾取されるだけってこと。
わかる?」
胸の底から激しい怒りがこみ上げてきた。
ずっと搾取されてきた。
だけど、それは自分が馬鹿だからではない。
おまえみたいな腐った人間が世の中にあふれているからだ。
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「ジンの人生はそんなに価値のあるものだったの?」
舞の言葉に束の間、自分の人生に思いを巡らせた。
今まで考えたこともなかったが、
自分の生きてきた時間のどれもが
どうしようもなく愛おしく、貴重なものに思えた。
秀雄と比較され続けてきた学校時代も、
長野の食品加工会社の仕事も、
あっけなくクビを切られた工場の派遣の仕事も、
劣悪な環境であった日雇い仕事の記憶さえも、
そのどれもが今の自分にとってはまぶしい記憶に思える。
なぜなら自分の努力次第で
いくらでも道を切り拓けたのだから。
今抱いている絶望とはまったく比較にならない
光り輝いた時間だったのだ。
どうしてもっと早くそのことに気づけなかったのだろうか。
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「奴らが使っていた騙す相手のリストの中には
ところどころにペンで『BL』やら
『HL』の記号が書いてあった。
これがどういう意味かわかるか?」
成海に訊かれて、仁は首を横に振った。
「『BL』はバッドラック、つまり運の悪いやつで
うまく引っかかったカモのことさ。
また引っかけられるかもしれない上得意だ。
『HL』はハードラック。
さらに運の悪いやつで首をくくっちまって
もう用なしって意味さ。」
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「仁・・・」
初めて発した母の声にためらいながら振り返った。
「裁判所で言えなかったことを言うわ。
わたしが生きている間に出てきてちょうだい」
仁は少し顏を上げて母を見た。
「こんなアクリル板に隔てられていたらあなたのことを
叩けないから。
そんなこと、刑事さんにも、裁判官にも頼めないでしょう。
それができるのはあなたの親だけなんだから・・・」
その言葉を聞いた瞬間、
どうにも感情が抑えきれなくなって
その場に崩れ落ちた。
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いつもありがとうございます
