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木内 昇 「笑い三年、泣き三月。」

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戦後の浅草を生き抜いた愛すべき人たちの物語。
昭和二十一年、浅草の劇場・ミリオン座に拾われた万歳芸人の善造。
活字好きな戦災孤児の武雄。
万年映画青年の復員兵・光秀。
年齢も境遇も違う三人と財閥令嬢を自称する風変わりな踊り子のふう子は
共同生活を始める。
戦争で木端微塵になった夢や希望を取り戻しながら、
戦後を生き抜く人々を描く傑作長編。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「死んだ奴がかわいそうなら、
生き残ったほうだって楽じゃねぇんだ。
楽じゃねぇどころか、
ことによっちゃ生きてるほうがずっと大変なんだぜ。
おまえらみてぇに、さっさと立ち直ってる奴ばっかじゃねぇのっ」


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「善蔵が旅芸人の枠を飛び越えて活躍したいと思っとるのは、
ようわかる。
今、流行っとる風刺の効いた漫才も確かに面白いのよ。
ただ、大勢さんをどうこうするばかりが芸ではなか。
俺たちがしてきたように、ひとつひとつ家を訪ねて、
じかに届ける笑いも意味がる。
俺はそういう笑いこそが大切だと思って、
誇りを持ってやっとうと」


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「ほんとうに笑いというのは、
不可思議なものよ。
簡単には正体を掴ませてくれんのよ。
でもね、坊ちゃん。
どうぞ笑って生きてください。
これからいろんなことがあるやろうけど、
どうか、笑って生きていってください。
それがおじさんの、たったひとつの望みよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも写真にはきっとなにかが写るんだと思う。
思い通りにいかなくても、
なにかがきっと潜むと思う。
僕はそっちを信じたいと思う」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

戦災孤児の武雄は、今日食べる物にありつけるかどうかだけしか

頭になかった。

誰にも相手されず、まだ10歳かそこらでたった一人の武雄が

博多から芸人として有名になる為に上京して来た善蔵と出会った事で

最低限の人としての暮らしが出来るようになります。

善蔵のあけっぴろげな陽気さと前向きな人生観が

物語を優しく明るくさせています。

両親も兄も空襲で亡くした武雄。

隅田川に流されていた家族の遺体を見て、

川を見る事を拒みます。

後にアパートの隣りに住む青年に勧められ、

武雄にとって天職となるカメラと出会います。

貴重なフイルムをカメラに入れたまま

なかなか撮影の決心が出来ずにいた隅田川でしたが、

ある日、思い切ってシャッターを切ります。

現像されて出来上がった写真を見た武雄は、

自分が今まで見ていた隅田川と違って写されていたことに驚きます。

今まで淀んで暗かった隅田川が、

写真になるとキラキラと輝き綺麗な川となって写っていたからです。

武雄は「これは自分が今まで見ていた隅田川ではない」と否定します。

写真は見たままを写しているようですが、

現像された写真はまた別の何かを写しているのだと教えられます。

まだ少年の武雄にとって天涯孤独で将来の希望もなかった自分の姿を

隅田川に写していました。

出来上がった写真を見て、武雄の将来はこれからなのだと、

子供は宝物だと言って、

いつも武雄を「坊ちゃん」と言ってくれた善蔵の言葉が、

武雄の心を前向きに強く動かします。

武雄にとって善蔵は、人生の指針となります。

物語の中のワンシーンに、善蔵が何とか手に入れた卵を皆で食べる時に、

夢にまで見た卵を口に入れられる事に興奮しすぎて気を失い、

鼻血まで出す武雄にホロっと笑わされました。

善蔵の武雄が大人になるまで育てようと頑張る姿に感動します。

武雄はもう15歳になりました。

カメラと出会いある写真家の弟子入りを決意します。

大人になるのが早い武雄に善蔵は分かれを決意します。

そんな切ない最後ですが、とてもさわやかで素敵な物語でした。





いつもありがとうございます
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プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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