親と子のすれ違い
謎解きが感涙に変わる・・・
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非常に読みやすい小説です。
初めの方は、切ない少年期の伊佐次が描かれています。
どんなに頑張っても出来て当たり前で、父親に認めてもらえず、
薬種問屋の跡取りとして厳しくしつけられます。
父親は婿の為、亡くなった嫁の母親に大変気を使い、
母親の手前、厳しく冷たい目で伊佐次に接します。
弟の栄次郎は、体が弱く頼りないですが、
素直で甘え上手の為、祖母は栄次郎ばかりを可愛がります。
伊佐次は、父親に愛情を期待しますが、受け入れてもらえず、
青年期にぐれてしまい、とうとう勘当されてしまいます。
勘当されてからの伊佐次は、当時の遊びで世話になった
賭場の親分の所で働き始め、後の後継者と噂される程にまでなり、
頼りにされる存在になってしまいますが、
親分が余命わずかとなり、亡くなった後は、
自分は足を洗って、江戸から離れる心づもりでいました。
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そんな中、勘当された実家の父親が亡くなったと知らせが・・・
前日の夜に、偶然「日無坂」で見かけた父親は、
悲愴な顔をしており、すれ違っても息子に気づくことはありませんでした・・・
そして・・・次の日には川に落ちて亡くなったとの知らせが・・・
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伊佐次は、父親の亡くなり方に疑問を持ちます。
前日の夜、父親とすれ違った後に、
見知らぬ狐顔の男が父親の後を追っていたからです。
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父親は同業の薬種問屋の大店から、
妙薬と言われる高価な「龍氣散」を仕入れるよう勧められており、
断れない付きあいの為仕方なく仕入れていました。
しかし、成分に疑問を持った父親は、一人調べており、
結果・・・
効き目の効果が見られない成分で調合されていることが判明・・・
それを大店に覚書として提出した矢先の父親の死・・・
父親は消されたのではないか・・・
また、偶然日無坂で尾行していた狐顔の男が
すれ違った伊佐次の事を知っており、
父親と結託しているのではないかと疑い、
伊佐次も狙われることに・・・
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伊佐次は、父親の無念を晴らすべく
犯人探しに奔走します。
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父親に叱られても謝らない程の頑固な少年だった伊佐次。
実は、自分の思いが伝わらない事で、
言葉に出来ず、口をつぐんでしまっていただけでした。
素直ではないと祖母になじられ、ますますかたくなになる少年伊佐次・・・
その頑固さゆえ、父親への反発を勘当されるというところまで
ひきずってしまい、離れて暮らすことになりましたが、
心の中では、いつも何かしら、父親・弟を気にしていました。
賭場の借金で息子と女房をおいて逃げた男の家に行った際には、
父親に捨てられた幼い子供の目を見て、
自分の幼い時の事を思い出し、
子供を奉公させて欲しいと、
将来の面倒を弟の栄次郎に託します。
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弟栄次郎は、伊佐次が勘当された後、正式に跡取りとして
父親と店をやるのですが、兄と違い優柔不断で、覚えも悪く、
父親に、将来を不安視されていました。
しかし、父親が亡くなった事で、栄次郎もしっかりと自覚し
成長していきます。
兄の伊佐次に対しては、江戸を離れず、自分たちをいつまでも
見守って欲しいと願い出ます。
伊佐次と栄次郎の正反対の人間性も興味深く描かれています。
男ぶりも良い伊佐次ですが、
この物語の中では、女性の存在は一切描かれていません。
めずらしいですね。
ですので色っぽいシーンは皆無です。
好きだ嫌いだ、ホレたはれたという
恋愛物をあまり読まない自分としては、
好みの物語でした。