大岡 昇平 「野火」
![]() 『野火』大岡昇平:楽オク中古品 |
昭和二十六年「展望」に連載。
読売文学賞受賞。
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致命的な宣告を受けてるのは私であるのに、
何故彼がこれほど激昂しなければならないかは不明であるが、
たぶん声を高めるとともに、
感情をつのらせる軍人の習性によるものであろう。
情況が悪化して以来、
彼らが軍人のマスクの下に隠さねばならなかた不安は、
我々兵士に向かって爆発するのが常であった。
この時わが分隊長がもっぱら食糧を語ったのは、
むろんこれが彼の最大の不安だったからであろう・・・
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大岡 昇平
1909年、東京都生まれ。
京都大卒。在学中より文学を志す。
四十四年召集を受け、
赴任地のフィリピン・ミンドロ島で敗戦を迎え、
米軍捕虜となる。
生還後、
「俘虜記」「野火」「ミンドロ島ふたたび」等、
戦争体験に基づく生々しい作品を多数発表。
恋愛小説・翻訳・評伝などの著作もある。
六十二年芸術員会員に選ばれるが辞退。
文学者としての良心に従い、
率直な文筆活動を続けて、
さまざまなジャンルに及び高い世評を受けた。
八十八年、永眠。
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