リンダブックス編集部「うちへ帰ろう-家族を想うあなたに贈る短篇小説集」
![]() | うちへ帰ろう―家族を想うあなたに贈る短篇小説集 (リンダブックス) (2012/12) リンダブックス編集部 商品詳細を見る |
①谷口雅美「タラレバ」
②佐藤万里「母の結婚」
③金広賢介「かぞえ歌」
④田中孝博「おにいちゃん記念日」
⑤関口暁「ばかばかしくて楽しくて」
⑥小松知佳「パン屋のケーキ」
⑦源祥子「さよなら、俺のマタニティブルー」
⑧野坂律子「ローマの一日」
⑨池田晴海「神様を待っている」
⑩甲木千絵「姉のコーヒー」
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①「タラレバ」
不慮の事故で死んだ息子を、
東京まで迎えにきた夫婦。
昔に家を飛び出したきりの息子だった。
息子にかけてやれなかった愛情を悔やむ夫婦の
想いがせつない・・・
②「母の結婚」
六十歳をすぎて、突然再婚を宣言した母。
自分のことや世間体ばかりを気にしているうち、
母の幸せを忘れていたことに
気づかされる兄弟たち・・・
③このごろ姉の様子が変だ。
しかし姉の変化に真っ先に気づいたのは父だった。
子供たちの挫折や失敗を温かく包んでくれる
家族を描いた「姉のコーヒー」
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いや~この短編集は、
のっけの第一章「タラレバ」から
泣かされてしまいました・・・
ほんとに短い濃縮された文面でありますが、
抒情的で目に浮かぶ風景や人物像が、秀逸です。
素行不良の子供たちに対して更生させる教育者として
長年携わって来た父親でしたが、
自分の息子に対してじっくり話を聞く事はせず、
反発した息子は家を出て、オレオレ詐欺の組織に入り、
犯罪を犯してしまいます。
三年ぶりに会った両親とは、刑務所の面会室・・・
その時に父親から言われた言葉は・・・
「おまえなんか、ロクな死に方せぇへんぞ」だった。
そして、その後、息子は・・・不慮の事故で死んでしまいます。
その息子が浮遊霊として死んだ自分と両親を眺めながら、
自分へ、そして両親へ語りかけます。
息子の遺体の対面に田舎から出てきた両親。
住んでいたアパートへ行き遺品の整理をしているうちに、
あぁすれば良かった、こぅすればこんなことにならなかった・・・
と自分達の息子へ対する不甲斐なさを嘆く・・・
父親は、「タラレバは嫌いや」と強い口調で言う。
両親はオレオレ詐欺被害者へ対する弁償金550万を払っており、
その事に対して息子は気持を改め、
せめて両親へ返そうと、月々1万ずつ貯金をしていました。
両親へのお詫びの手紙も添えて・・・
まだ3万しか貯まっていなかった通帳を見た母親は、
「ねぇ、この3万であの子が好きやったもん買うて
お供えしたげてもええ?
あの子、あんパン好きやったよね」
父親「そうしてやれ、俺らにできることは
そんなことぐらいしかないんやから」
「そうやね・・・。
もっともっとしてあげられることあったのにね。
550万の弁償だけやなしに、もっともっと・・・
・・・帰って、おいでって・・・言うたげられたら・・・」
両親が息子の骨壺を抱いて、
電車を待っている駅のホームの場面が最後なのですが、
もう・・・
たった一言のお父さんとお母さんの言葉に泣きました・・・
とてもせつない物語でした・・・。
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