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宇江佐 真理 「余寒の雪」

余寒の雪 (文春文庫)余寒の雪 (文春文庫)
(2003/09)
宇江佐 真理

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男髷を結い、女剣士として身を立てることを夢見る知佐。

行く末を心配した両親が強引に子持ちの町方役人と祝言を挙げさせようとするが―。

幼子とのぎこちない交流を通じ次第に大人の女へと成長する主人公を描いた表題作他、

市井の人びとの姿を細やかに写し取る短編集。

中山義秀文学賞受賞の傑作時代小説集。

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1.紫陽花

 元遊女で今は太物商「近江屋」の内儀になっているお直が、
ついに苦界から抜けられないまま死んだ遊女梅ケ枝の
野辺の送りに立ちあう・・・
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2.あさきゆめみし
 
「しかし、若旦那が金比羅亭に通ってらしたのは、
あれは何だったんでしょうね。
今じゃ狐に抓まれたような心地ですよ」
「あれはねえ・・・」
正太郎は独り言のように呟いた。
あれほど夢中になっていた気持ちに正太郎自身も
説明がつけられなかった。
「夢を見ていたんだろうよ」
「へ、夢ですか」
「そうさ。だって夢はいつかは覚めるものだもの」

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3.藤尾の局
 
今の自分は備前屋という商家の女房である。
藤尾の名はとっくに捨てたつもりだった。
しかし、息子達と微かながら和解の兆しが見えたのは、
その藤尾であった頃の逸話からであった。
最初は藤尾であったことで息子達から疎まれたのに・・・。

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4.梅匂う
 
番傘を拡げ、自宅に踵(きびす)を返した時、
ふと花の香りがした。
あの時の香りだ。大滝に初めて会った時に誘われた香りである。
隠居に譲った梅の鉢が雨に濡れながら、
植木棚にちんまりと置かれていた。
それが提灯の灯りにぼんやりと照らされていた。
もう、花はあらかた落ちて、
最後の一つがかろうじて咲いている。
花は隠居の供養とばかり、かぐわしい香りを辺りに振り撒いているのだろう。
助松はその香りを胸一杯に吸い込んだ。
大滝の香りだと思った。

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5.出奔
 
「兄はわたくしのことをきっかけに仕官を夢見ていたようでございます。
乱暴者で昔から両親に心配っさせてばかりおりました。
ですから勝蔵様がわたくしの様子を見にいらっしゃった時も
すげなく追い返してしまったのです。」

「わたくし、兄が亡くなっても少しも悲しいとは思いませぬ。
勝蔵様のことばかりが悲しく思い出されます。」

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6.蝦夷松前藩異聞
 
栄吉は自邸に貯蔵していた食料をニシパに分け与えた。
ニシパは和人は嫌いだが栄吉とその工藤は好きだと世辞を言って帰った。
栄吉の胸は久々に温かいもので満たされた。
時がすべてを解決する。
その気持ちは栄吉の中で揺るぎなかった。

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7.余寒の雪
 
「何ゆえ、武士の魂である刀を放り出された?」
「それは剣を捨てたという意味でござるか?」
「知佐殿」
乱暴に腕を取られた。
知佐は自分の二の腕を掴んだ俵四郎の力にうっとりとなった。
それは先刻、真剣に向き合った時の気持ちと似ていた。
「飾磨殿が迎えにいらしても、国に戻らぬと言うてくれませぬか」
俵四郎のいかつい肩が目の前にあった。
知佐は今しも、その肩に自分の頬を押し当てたい衝動に駆られていた。
そして、実際に俵四郎に抱き寄せられた時、
俵四郎の肩越しに余寒の雪を被る富士の山が見えた。
雪は、知佐の眼に滲みた。
白く、この上もなく白く・・・。

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いつもありがとうございます。

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プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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