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宇江佐 真理 「おちゃっぴい」


おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (文春文庫)おちゃっぴい―江戸前浮世気質 (文春文庫)
(2011/01)
宇江佐 真理

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札差駿河屋の娘お吉は、町一番のおてんば娘。

鉄火伝法が知れわたり、ついたあだ名がおちゃっぴい。

どうせなら蔵前小町と呼ばれたかったけれど、

素直にゃなれない乙女心、やせ我慢も粋のうち…。

頑固だったり軽薄だったり、面倒なのに、なぜか憎めない江戸の人人を、

絶妙の筆さばきで描く傑作人情噺。

大笑い、のちホロリと涙の六編集。

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1.町入能(まちいりのう)

「あいにくだが、こちとら生まれつき物覚えがいい質でな、
小汚ねエ裏店住まいは骨の髄まで滲みついていらアな。
手前エのその仏頂面は忘れようにも忘れられねエ。
こいつは棺桶に入エるまでついて回るというものだ。
手前エも今後、侍とつき合う時は、
もちっと目立たねエように振舞うことだ。
そうでなけりゃ、おれのように一生その顔を
覚え続ける羽目になるんだからな。
わかったか、初五郎!」

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2.おちゃっぴい

「惣助、お前は武家出が自慢らしいが、
そんなものは今じゃ何の役にも立ちゃしないよ。
貧乏御家人の子だくさんで、お前のおっ母さんは
可哀想に三十を過ぎたばかりだったのに、
うちのおばば様より老けて見えた。
喰う物も喰わずに、お前のお父っつあんは労咳に倒れ、
医者だ薬だと金を遣った挙句に死んじまったそうじゃないか。
残されたのは借金と腹を空かせた五人の子供達。
長男のお前を士官させようにも紋付も二本差しも質に入れて、
何とも恰好がつかなかったと聞いてるよ。
よしんば士官が叶ったとしても、
小普請組からいただく雀の涙のような禄じゃ、
到底暮らしが成り立つはずもない。
お前のおっ母さんは、侍なんてたくさんだと言っていたよ。
うちのお父っつぁんが畏(おそ)れながらと礼を尽くして
お前を手代に抱えることで借金を帳消しにしてやった。
そうでもなかったら、お前の所は一家心中で、
今頃は投げ込み寺に卒塔婆(そとば)が六基、
立っていたに違いない。
武家の頃の許嫁だって?笑わせるんじゃないよ。
向こうさんだってほっとしてるわ。
少なくてもお前と一緒になって貧乏に喘ぐ(あえぐ)よりましさ」
 お吉はいっきにまくし立てた。
お玉は驚くよりお吉の啖呵(たんか)に感心した顔をしていた。

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3.れていても

「れていても、れぬふりをして、られたがり、
でございましたね、若旦那」
備前屋は、また知ったかぶりの川柳を振り回した。
「何だよ、備前屋、れていてもって」
与四兵衛が飲みこめない表情で備前屋の分別臭い顔を見た。
「上にほの字をつけてごらんよ、与四兵衛」
菊次郎が訳知り顔で言った。
「あ、惚れていてもね?なある・・・
いいね、その文句。あちきも今度遣おう。」
「ふん、野暮はこれだから困る。
備前屋、珍しくわたしの気持ちはわかってくれたね?」
「わかりますとも」
備前屋は大きく肯いた。

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4.概ね(おおむね)、よい女房

「おときさん・・・」
おすまはそう言ったきり、再び喉を詰まらせた。
男達は俯いたきりである。
武家の家の複雑な事情が重くのし掛かっていた。
誰しも、これで素町人の暮らし方が案外倖せなのかも知れないと、
そっと思ったはずである。
幸右衛門も女のような仕種で眼を拭っていた。
重苦しい雰囲気に苛立ったように、
今朝松が突然、声を上げた。
「ふんとにもう・・・」
勘助店の連中はその声で一斉に顔を上げ、
ぷっと噴き出した。
梅吉などはそのまま顎をのけぞらせて馬鹿笑いしている。
おすまは今朝松の方を向いて
「ふんとにもう、人の口真似ばかりして、この子は」と、
呆れたように言った。
その顔はもう、いつものおすまだった。

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5.驚きの、また喜びの

「親分、あっしがこいつを十四でこさえた話は
聞いていなさいますね?」
「ああ・・・」
「あっしとおそでは所帯を持つことを親に許して貰いやしたが、
暮らしの面倒は一切見ないという約束でほっぽり出されやした。
正直、苦労しやした。広い世間に二人ぽっちでした。
米が買えなくて一人分の飯を粥にして啜ったことが
何日も続きやした。
こいつが生まれても暮らしはそうそう変わるもんじゃありやせん。
いや、むしろ、ますます苦しくなった。
今度ァ一人分の飯を三人で分け合う暮らしでさァ。
だが、おそでが言ったんですよ。
うちは三人で一人前だから、何でも三人で力を合わせて行こうってね。
おそでは三つになったこいつにも噛んで含めるように言いやした。
こいつは殊勝に肯いておりやしたよ。
娘達が生まれても、そいつは同じでさァ。
何をするにも家族で一緒になってやって来ました。
て組に入って梯子乗りを任された時ァ、
怖じ気をふるって断ろうかと考えていたら、
子供達が言うんですよ。
ちゃん、肝っ玉が小せェんだよって。
その言葉に励まされて、あっしはやりましたよ。
あっしは手習所にもろくに通わなかったし、
倅や娘達に教える物は何もねェ。
せめて梯子乗りの技と纏(まとい)持ちの心意気だけは
伝えようと決心したんでさァ。」

・・・・・・・・・・・・・・・
6.あんちゃん

祝言の日、おかねは、おゆきの店で誂えた白無垢の衣装で輿入れして来た。
おゆきも祝言の機会に、しっかり商売っ気を見せ、
それにも菊次郎はうんざりだった。
何ほど極上の衣装か知れないが、
これほど花嫁衣裳の似合わない娘もいなかった。
こってりと白造りに白粉を塗った顔は、
たちの悪い雪女、京紅を塗った大きな口から見える歯が、
やけに黄ばんで見えた。
嬉しさにその顔で菊次郎に笑い掛けるものだから、
菊次郎はおかねの綿帽子をぐっと引き下げた。
おかねはおとぎ話の鉢かずき姫のようになって、
それでも祝言の席では殊勝にしていた。



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cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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