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北原 亞以子 「妻恋坂」


妻恋坂 (文春文庫)妻恋坂 (文春文庫)
(2007/11)
北原 亞以子

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お町が番附売りの周二と出会ったのは霞ヶ関の坂道だった。

男振りのいい周二から過去の話を打ち明けられたお町は

いつしか恋心を抱いた。

だが周二の話にはたった一つ、

ついてはならない嘘があった―表題作のほか、

江戸の喧騒の中を懸命に生きる七人の女たちの営みなどを

艶やかな筆で描く著者会心の短編集。

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1.妻恋坂
2.仇討心中
3.商売大繁昌
4.道連れ
5.金魚
6.忍ぶ恋
7.薄明り

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4.道連れ


「帰っとくれ」
と、おしんは言った。
「二度とこないでおくれ」
おすえは、黙って火吹竹をおしんの足許に置いた。
上目遣いにおしんを見たが、
おしんが顔をそむけているのを見ると、
板の間に上がってきた。

「世話になったね」
答える気にもならなかった。
おすえは、少しの間立ちどまっていたようだが、
障子の開く音がした。
布の触れ合うような物音が聞こえてくるのは、
着替えを戸棚から取り出しているのかもしれなかった。

「帰るよ」
背後で嗄れた声がした。

「忘れものをしないでおくれ」

「わかってるよ」
茶の間から表口へ出て行ったらしい。
沓脱の下駄をはく音が聞こえて、
格子戸が開いた。
飴の袋をかかえて、横山町二丁目を表通りから裏通りへ、
裏通りから表通りへと、
幾度もまわっていたおすえの姿が目の前に浮かんだ。

ばかやろう。
娘のうちへ行かれなくなったのは、
わたしのせいじゃねえや。

だが、日傘もささずに横山町を歩いていて、
陽に焼けたおすえの姿は目の前から離れない。

顔も知らない母親も、おしんに会いたさに、
叔母の家のまわりを歩いていたことがあるのではないか。

おしんは、表口の三和土に飛び降りて格子戸を開けた。

「ばかやろう。朝めしぐらい食ってゆきな」

小さくなっていたおすえの姿が足をとめ、
おしんをふりかえったようだった。

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いつもありがとうございます
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cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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