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小杉 健治 「冤罪(えんざい)」   

冤罪


渾身の長編時代サスペンス

一夜限りの女のために獄門台に首をさらすのか。

無実を晴らすことができるのは、倉賀野宿で出会った女郎だけ。

だが、女は大店の主と幸せを掴もうとしていた。

故郷から江戸にもどってくると、

見に覚えのない押し込みの疑いがかけられていた。

追手を振り切った半次郎は、殺しのあった夜、

一緒にいた宿場女郎を探し出す。

だが、女は大店の若主人に身請けされ、盛大な婚礼を間近にひかえていた。

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それにしても、半次郎は自分の前に現れることがあるのだろうか。お里と所帯を持つため身を粉にして働こうとした半次郎だ。なまじ、すれがらしの者ではなく、真正直な人間だけにお里っを追い求めて来るかもしれない。そう思ったとたん、半次郎との一夜が唐突に思い出され顔が熱くなった。半次郎を恐れながら、懐かしむ気持ちがあるのかと知って、驚いて顔を背けた目に隅田堤の緑がいっそう濃くなって飛び込んで来た。

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濡れ衣を着せられた半次郎の悲しい物語です。

やるせないと言うか・・・

あまりにに理不尽でくやしい気持ちの残る読後感です。

まだ25歳の半次郎の人生を、

やってもいない罪を自分がかぶる事で終わらせて良いのか・・・

裏切られ自棄になり荒れていた半次郎を救ってくれた人達・・・

半次郎を目の敵にして執拗に追いかける岡っ引き・・・

スピード感のある表現にあっと言う間に読み終え、

半次郎に手を合わせるような気持ちで本を閉じました・・・。

装丁の絵が素晴らしい!



いつもありがとうございます
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宇江佐 真理 「日本橋本石町 やさぐれ長屋」」 


日本橋本石町やさぐれ長屋日本橋本石町やさぐれ長屋
(2014/02/21)
宇江佐 真理

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日本橋本石町に弥三郎店と呼ばれる長屋があった。
事情を抱えた住人ばかりが住んでいて――。

「時の鐘」
 真面目一徹、そろそろ嫁をと周囲から勧められる鉄五郎。
そんな鉄五郎に気になる相手が現れたのだが、
若くして出戻ったおやすという莨屋の女だった。

「みそはぎ」
 おすぎは、老いた母親の面倒をみている。
ある日、勤め先の井筒屋に見慣れぬ男が来るようになった。

「青物茹でて、お魚焼いて」
 おときの旦那は錺職人。
次第に泊まり込みの日数が長くなり、しまいにはひと月にもなった。

「嫁が君」
 おやすはずっと旦那が家にいるおひさのことが羨ましい。
ある日、この旦那が寄せ場からきた人物だと噂になる。

「葺屋町の旦那」
 おすがのかつての奉公先の倅が、弥三郎店にやってきた。
どうやらこの倅、わけありのようで。

「店立て騒動」
 弥三郎店が店立てに?!
住人は緊急事態にてんやわんやの大騒ぎ。
どうにかこの事態をとめられないか。
長屋の住人が一致団結して行ったことは。

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「時の鐘」
 
 「鉄五郎さんが出戻りのあたしを女房にしたいって言ってくれるのは涙が出るほど嬉しいよ。だけど、鉄五郎さんがあたしに世間並の女房を求めているのなら願い下げだ。あたしはあたしだ。今も十年先も気性は変わらない。出戻りだからって遠慮するつもりもないのさ。そこを承知してくれるのなら考えてもいいけど」

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「みそはぎ」

 「みそはぎは仏様の花だそうですね」銀助は訳知り顔で言う。「ええ。いつもお盆の頃に咲きます」「仏様はみそはぎの花の露でなければ口にされないそうです」「そうなんですか」おすぎは初めて聞いた。「仏様に供える禊ぎ(みそぎ)の萩だからみそはぎと呼ぶのですよ」

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「青物茹でて、お魚焼いて」

 「ごめんよ、ごめんよ。おっ母さんがばかだった。もう、どこにも行かなくていいからね」おときはおちよを抱き締めて泣いた。作次にも、お前がいてくれたお蔭で、おっ母さんは助かったと言った。「おいら、尾張屋に戻らなくていいのか」作次はそれが肝腎とばかり訊く。「ああ、おちよも一緒だ。でも、おっ母さんは、また夜のお仕事を続けなければならないから、二人とも我慢しておくれよ」「平気だ、おいら。尾張屋にいるより何んぼかましだ」「あたいも、おしょさんの家にいるより留守番するほうがいい」「そうかえ。さあさ、ごはんを炊こうね。作次、通りに出て、納豆売りを見つけたら、買って来ておくれ」「合点!」作次は張り切った声を上げた。ようやくあらぬ夢から覚めた思いだった。うかうかと忠助について行ったら、どんな目に遭ったかわからない。自分は甘い女だった。茂吉が帰って来なくても、自分は子供達の母親でいようと、改めてそう思うのだった。

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「嫁が君」
  「あたし、滅法界もなく倖せ」おやすはうっとりした顔になった。ひと月の間の鬱陶しいものが、俄かに(にわかに)晴れるようだった。井筒屋で鉄五郎の猪口に酌をしながら、六助夫婦のことを話してやろうと思った。(六助さんは寄せ場帰りだけど、お前さんはそんなこと気にしないだろ?あの人はいい人だ。おかみさんのおひささんも亭主思いの女房だよ。ねずみの始末をつけてくれたのも六助さんなのさ)鉄五郎に話す言葉を、おやすはあれこれ考えていた。
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「葦屋町の旦那」

 「この弥三郎店はな、やさぐれ長屋とも呼ばれているんだぜ。だがよ、やさぐれている者なんざ一人もいやしねェ。皆、おまんまを喰うためにあくせくしながら稼いでいるんだ。お前ェ、ひと月余りも新場で働いたから、ちったァ、貧乏人の暮らしがわかったんじゃねェか。それとも、まだわからねェか。」「兄さん、何が言いたい」「実家をおん出て意気がっているお前ェは大ばか野郎だってことよ」

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「店立て騒動」

  「お前さん、あたし、夢を見ているみたい。世の中には、こんなことも起きるのね」その夜、おやすは蒲団に入ってからも興奮して、なかなか眠れなかった。「井戸替えしたから、井戸の神さんのご利益もあったかな」鉄五郎はそんなことを言う。「きっとそうね。自分達のためでなく、後の人のことを考えて井戸替えしたのがよかったのよ。皆んなの優しい気持ちが通じたのよ」「だな」鉄五郎は満足そうに肯く(うなずく)。



いつもありがとうございます

彩りご飯   2014.5.8(木)

今夜は、豆腐茶碗蒸し。
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きはだまぐろのお刺身。
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彩りご飯。
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ひき肉そぼろ・炒り卵・いくら・絹さや。




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いつもありがとうございます

宇江佐 真理 「おはぐろとんぼ」


おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語おはぐろとんぼ 江戸人情堀物語
(2009/01/21)
宇江佐 真理

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父親の跡を継ぎ、日本橋小網町の料理茶屋で料理人を勤めるおせん。上方で修業をし、新しくおせんの親方になった板前の銀助と、上方の料理を店に出すことを嫌うおせんとはたびたび意見が食い違う。そんないらいらした気分の日々が続くとき、おせんは、店にほど近い稲荷堀の水を眺めて心をしずめていたが、ある日湯屋で銀助と娘のおゆみと鉢合わせしたことから心に小さな変化が――仕事一筋に生きてきた女に訪れた転機と心模様を描く、表題作の「おはぐろとんぼ」ほか、薬研堀、油堀、源兵衛堀、八丁堀などを舞台に、江戸下町で堀の水面に映し出される、悲喜交々の人情のかたち六編。江戸市井小説の名手が描く感動の傑作短編集です!

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1.ため息はつかない
 
「お嬢さんは、うちのお袋のことをどんな女だと思っていました?」「柳橋の芸者さんだったってね。普段着を着ていても様子が垢抜けていたよ。勘助の話じゃ、お前を引き取ってからも後添えの話があったらしいよ。だが、皆、先様に子供がいる人ばかりだった。お前を連れて後添えに入れば、お前だけを可愛がる訳には行かない。また、子供のいない男は甲斐性なしで、先行きが不安だった。それでとうとう独り身を通してしまったんだよ」胸が熱くなる。喉が苦しい。豊吉は掌を口許に押し当てて咽んだ。「お前のおっ母さんこそ、ため息をつきたかっただろうね。あたしは、そう思うよ。」

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2.裾継(すそつぎ)
 
彦蔵は大きく肯いた。表櫓と裏櫓を繋ぐ意味の裾継は、まるで何かの象徴のようにも、おなわには思えた。いや、おなわはわかっていた。裾の補強に当てられた布は、おなわ自身であると。おみよが去って行った不足を補うのが、おなわの役目だったからだ。そう考えると、裾継という場所におなわがやって来たことの意味が腑に落ちる。

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3.おはぐろとんぼ
 
「うちがおらんかったら、小母さんはお父ちゃんと一緒になってくれはるの」おゆみは箸を止めて、おせんに訊く。「おゆみちゃん」おせんは何んと応えていいかわからなかった。「そいじゃ、うち、よその子になるし」おゆみが言った途端、おせんはたまらず掌で口許を覆った。父親を思うおゆみの気持が切なかった。「そういうことじゃないのよ、おゆみちゃん。小母さんはおゆみちゃんのおっ母さんになる自信がないだけなのよ」おさとは噛んで含めるように言った。「うち、言うことを聞くよ、小母さん。稲荷湯で百数えるまで湯舟に浸かるよ。それでもあかん?」

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4.日向雪(ひなたゆき)
 
竹蔵は死んで、ようやくほっとしたのかも知れないと梅吉は思った。(もう、金の工面をしなくてもいいぜ。竹、安心したろ?)梅吉は竹蔵の入った棺桶に胸で話し掛けた。荒縄で括られた棺桶は松助と与吉に伴われて静かに助次郎窯を出て行った。梅吉と職人達は掌を合わせて、それを見送った。瓦のけりをつけたら、助蔵に休みを貰い、すぐに梅吉は後を追うつもりだった。春だというのに、ちらちらと雪が舞っていた。空は明るい。それもそのはず、頭上には陽が出ていた。陽射しは源兵衛堀に柔らかな光を落としていた。「日向雪ね。お天道さんも竹蔵さんの供養をしているみたい」潤んだ眼をしたおちよが呟いた。

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5.御厩河岸(おうまやがし)の向こう
 
「向こうのおっ母さんが、ままを炊いて仏壇に供えると、鼻から湯気を呑むようで温かかった。仏さんには温かいものを供えるといいんだよ。線香の煙も温かくてよかったよ」「仏壇に毎日ままを供えているかい」「ええ。時々、忘れてお姑さんに叱られることもあるけどね」「時々なら忘れても構いやしないよ。忙しかったら、墓参りも無理にすることはない。肝腎なのは死んだ者のことを時々、思い出してやることさ」

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6.隠善資生の娘
 
「苦労したのだな」隠善がそう言うと、おみよは泣き笑いの顔で「でも旦那とお知り合いになれて、あたしは嬉しかった。おまけに、旦那の娘じゃないかと思って下さるなんて」と言った。「十六年前におれは前の家内を亡くしておる。家にいた中間に襲われたのだ。家内は助からなかったが、その時、家にいた女中と一緒に娘がいなくなったのだ。未だに行方知れずのままだ。おれも親だから、いつまでも娘のことが忘れられない。おみよを見て、前の家内に似ていると思うと、ここへ通わずにはいられなかったのだ。

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いつもありがとうございます


 
プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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