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宇江佐 真理 「夜鳴きめし屋」 


夜鳴きめし屋夜鳴きめし屋
(2012/03/17)
宇江佐 真理

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本所五間堀にある「鳳来堂」。
父親の古道具屋を、息子の長五郎が夜鳴きめし屋として再開。
朝方まで営業している店には、父親の友人たちや、近くに住む武士、
芸者や夜鷹までさまざまな人々がやってくる。
その中に、かつて長五郎と恋仲だった芸者のみさ吉がいた……。
『ひょうたん』の世界から十数年後、待望の続編登場!

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1.夜鳴きめし屋
 
「薄情だぜ、お父っつぁんとおっ母さんは」長五郎は仏壇に灯明を上げて恨み言を言ったものだ。お鈴が亡くなると、長五郎はしばらく腑抜けのようになった。これからは一人で何でもしなければならないとだと頭でわかっていても身体が言う事を聞かなかった。見世の口開けの時刻も、以前なら七つ(午後四時頃)だったのが、どんどん遅くなり、暮六つ(午後六時頃)の鐘が鳴っても暖簾を掛けなくなった。手前ェ一人が喰えればよいという気持ちもあったからだ。だが、とにかく、見世は休むことなく毎日開けた。それはお鈴の遺言でもあった。たとい客が来なくても、商売をする家は毎日見世を開けるのが肝腎なのだと。

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2.五間堀の雨
 
これからどうなるのだろう。長五郎はぼんやり思う。惣助と出会う機会があったということは、亡き両親の思し召しだろうか。そんな気がする。惣助が持ち帰った万年青(おもと)の鉢を窓框(まどかまち)に飾り、それを眺めるみさ吉の白い顔もぼんやり頭に浮かんだ。

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3.深川贔屓(ふかがわびいき)
 
「惣助は・・・おいらの倅になるんですかい」長五郎の問い掛けに、みさ吉はつかの間、黙った。それから長五郎を上目遣いに見ながら口を開けた。「どうしてそんなことを訊くの?」「どうしてって、そんな気がしてならねェからですよ」「思い過ごしですよ。おおかた駒奴が余計なことを喋っていたのね。そんな訳があるもんですか」みさ吉は怒ったように言った。「しかし、それなら、なぜ湊屋は惣助を引き取らねェんで?」「それはあたしが惣助を育てると先様に言ったからですよ。引き離されるのはいやだったの。もう、あたしには惣助以外、身内と呼べる者はいなかったし」

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4.鰯三昧(いわしざんまい)
 
「姐さんは肝腎なことをひとつも言わない。おいらが惣助を気にするのは、もしかしてあいつが手前ェの倅じゃなかろうかと思っているからですよ。しかし、姐さんはそうじゃねェときっぱり言った。そのくせ、菱屋の奉公の話が持ち上がると、さして考えもせず決めちまった。どういうことなんで?普通は別の店にするんじゃねェですかい。思わせぶりなことばかりするあんたに、おいらも惣助もいい加減、うんざりしますよ」

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5.秋の花
 
「ここからずっと外の様子を見ていたのよ。和泉屋はきれいさっぱり壊されちまった。建てる時は何か月も掛かるのに壊すとなったら、あっという間ね。お蔭で酔いも醒めちまった」みさ吉は存外落ち着いた声で応えた。「駒奴と増川姐さんは無事でした。お内儀さんは気絶して自身番に運ばれたそうですが」「そう・・・」「これからどうしますか」「わからない」「姐さんの身寄りは誰も残っていないんでげしょう」「そうね。でも、惣助を奉公に出した後でよかった。親子で路頭に迷うなんてみじめだもの」「身を寄せる所がないなら、そのう、鳳来堂に来ませんか。おいらは独り者ですから遠慮はいりませんよ。見世の二階には狭いですけど寝る部屋もありますし」

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6.鐘が鳴る
 
「実は女房を待っているんですよ」「え?」浦田は驚いて長五郎をまじまじと見た。「女房がいたのか」「以前に惚れたおなごがいたと申し上げたことがありますが」長五郎は浦田の視線を避け、落ち葉に眼を向けて言う。「うむ、それは聞いた」「そいつですよ。十年以上も離れていたんですが、その間に倅まで拵えていたんですよ」「ほう!」浦田は力んだ声になる。わしの知っているおなごか、と浦田は続けた。「和泉屋で駒奴と一緒にお座敷に出ているみさ吉という芸者ですよ」「聞いたことがあるような、ないような。もう一度会えば、はっきりわかるだろう」「倅にもてて親だと明かしました。これから親子三人で生きて行くつもりなんですが、肝心のみさ吉が、果たしてここへ来るかどうかわかりやせん。もう四つを過ぎましたよね」長五郎は不安な気持ちを浦田に言った。「きっと来る。拙者も一緒に待ってやろう」「ありがとうございます」

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cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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