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乙川 優三郎 「むこうだんばら亭」

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江戸での暮しに絶望し、あてどない旅に出た孝助は、
途中で身請けした宿場女郎のたかと銚子へ流れ着いた。
イワシや醤油で賑わうとっぱずれの地で、
彼は酒亭「いなさ屋」を開き、裏では桂庵を営んだ。
店には夜ごと寄る辺なき人々が集う。
貧苦ゆえに売笑する少女、放埒な暮しに堕ちてゆく女……
思うにまかせぬ人生の瀬戸際にあって、
なお逞しく生きようとする市井の男女を描く連作短編集。


・・・・・・・・・・・・・・・

「椿山」の第一章の「ゆすらうめ」の続編。

ここで続編が出て来るとはこの本の解説を読むまで

気付かなかった。

なるほど、「孝助」「たか」の

男と女になれない微妙な関係が

孝助の過去の悔いで理解ができた。

「たか」も孝助から身請けされた身の上で

自分を受け入れてもらえないと思い、

6年もの間一つ屋根の下、

襖一枚隔てた部屋で暮らすことに耐えていたわけだ。

孝助は江戸の場末で姉と営んでいた小さな娼家で

女たちを食い物にして暮らしていた。

ある年、年季の明けた女と

人生を遣り直すつもりで奔走したが

女は結局貧困に喘ぐ肉親のために女郎に戻ってしまった。

見切りをつけた孝助は出奔し女を見捨てた・・・。

見捨てた女の名前が「たか」だった。

淫蕩な商売と金に埋もれてゆく自分がいやで出奔した孝助。

旅の途中で「たか」という宿場女郎を見たとき、

見捨てた女「たか」を思い出さずにはいられない。

女郎の「たか」のどん底の不幸を救うのは心の慰めだった。

それから6年。

たどり着いた港町銚子で「いなさ屋」を、

夫婦になりきれない二人で静かに営んで来た。

物語を通して寂寥とした港町を感じて寒々とします。

果てのない不幸と貧困に見る女の性が

何とも切ない悲しさで途中で読むのやめたくなる程。

最後の章でやっと救われる思いと明るさが味わえて

何とか読み切る。

詩情あふれる文体ですが、

悲しみや悔いに追い込まれそうな救いがたい物語に

誰が悪いわけでもないのに

責めたくなりました・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・

1.行き暮れて
 「でも、まだ終わっていないの、
もったいなくて終われないわね、
命がけで海へゆくのもそう、
あした死ぬとしても、それまでは悔いなく
生きてみたいの、
だから今日したいと思うことをするだけ、
いまさら死に急ぐつもりはありません」

・・・・・・・・・・・・・・

2.散り花
 うまくゆかないときはそんなもので、
ひとつ歯車が狂うと手の打ちようがなくなる。
すがの気力がいつまで続くか分からないが、
あとは見て見ぬ振りをして、
彼女と男の取引に関わらないでいるしか
ないように思われた。
いずれにしても、その手で味をしめた女は
もとに還れないだろう。


・・・・・・・・・・・・・・

3.希望
 「これは親切で言うんだ。
おまえさんは小りこうで目先のことは
何とかするらしい、
だが肝心なことは何ひとつ見ていやしない、
金だけを恃んで(たのんで)
金に縛られている、
だからほかの悦びを知らない、
そういう女は間抜けな男から
小金をせしめていい気になるが、
そのうち金に追われてくたびれてゆく、
そうなりたくなかったら、
まともな男に惚れてみることだな、
おまえさんのちっぽけな世間にも
ひとりやふたりいるだろう、
その男に本当の悦びを教えてもらうがいい」

・・・・・・・・・・・・・・・

4.男波女波(おなみめなみ)
 「生きている人を忘れるほうがむつかしいと思うわ、
泣いても叫んでも会えない苦しさは
同じかもしれないけど、
この世にいると思うと忘れようがないし」
「理屈じゃねえ」
「男の人に許されなくても女は受けとめて
生きてゆくしかないわ、
佐田蔵さんは男じゃない、
死んだ人に振り回されてどうするのよ」

・・・・・・・・・・・・・・・

5.旅の陽射し
 夫婦の行き着くさきは見えてしまったが、
そこへ向かう日々はこれまでとは
違うものになるだろう。
その証に意伯は見栄も誇りもかなぐり捨てて、
泥臭い素顔をさらしている。
死と隣り合わせの生を見つめているとしたら、
ある意味で残された月日は彼の一生にも
匹敵するに違いない。
だとしたら、このまま少しでも長く二人のときを
生きたいと願った。

・・・・・・・・・・・・・・

6.古い風
 外へ出ると、思ったよりも月が明るく、
川風も柔らかかったが、
彼女は行くあてのない気持ちで歩いていった。
ひとつのことが終わり、
ほっとした気持ちの裏に、
うそ寒い孤独が張り付いている。
いまさら悔やんでも仕方がない、
と気を引き立てて歩きながら、
彼女はこれで元に戻るだけだと自分に言い聞かせた。
何か違うとすれば、
このさきずっと住まうことになるひとりの家が
以前よりも冷たく、恐ろしく感じられることであった。

・・・・・・・・・・・・・・

7.磯笛
 彼は妻を亡くしてからの余白の人生が、
ここへきて急に終わりに近づいたように感じて、
身辺を綺麗にしたいという思いに追われていた。
働き者だった妻の霊がそのときを
知らせてきたのかもしれない。

・・・・・・・・・・・・・・

8.果ての海
 女が女を生きて失うものが、
たかにははじめからなかった。
情熱の向かうところへ身を投じられる月日が
女の若さなら、彼女ははじめから老女も同然であった。
肉体の若さが最も自然に光るころ、
彼女は檻の中にいた。
生きていることだけが人生の幸運であった。



いつもありがとうございます
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プロフィール

cn7145

Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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