宇江佐 真理 「びんしけん」

最新の傑作を揃えた魅惑の16編。
日々新たな傑作が生まれ、目が離せない歴史・時代小説界。
短編小説の滋味に触れるのに最適の、平成22年度版珠玉のアンソロジー。
持ち味を出し切って描いた作家は、
荒山徹、泡坂妻夫、岩井三四二、宇江佐真理、海老沢泰久、
乙川優三郎、北重人、北原亞以子、西條奈加、東郷隆、鳴海風、
蜂谷涼、葉室麟、山本一力、山本兼一、好村兼一。
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宇江佐真理「びんしけん」がやっぱり一番好きでした。
長屋で子供達に学問を教えている小佐衛門と、
盗賊の娘の奇妙な繋がりとほのかな恋の物語です。
盗賊の頭である父親が打ち首獄門で裁きにあったあとの娘お蝶は、
20歳でありながら読み書きが出来ず野放図な暮らしぶりから、
一人前の女性としてのたしなみが出来ませんでした。
ひょんな事からお蝶を預かる事になった小佐衛門は、
お蝶の本来の素直でまっすぐな優しい気性を感じますが、
長屋の住人に盗賊の娘と知れた事でお蝶と住人が喧嘩になり、
お蝶は小佐衛門に迷惑をかけた事で長屋を去って行き、
二度と戻って来る事はありませんでした。
小佐衛門はその時にお蝶を住人から守り通す事が出来ず、
後にお蝶が小佐衛門の嫁になりたいとの胸の内を知りますが、
自ら娘の元へ行き自分の想いを告げる事はありませんでした。
お蝶は小佐衛門の気持ちを知る事なく、その後職人の元へ嫁ぎました。
小佐衛門は・・・
「四十男の分別が邪魔をしたと言えばそれまでだが、
お蝶に対して自分の気持ちを、もっと強く訴えておけばよかったのだ。」
と、ほろ苦い思いになるという切ない物語です。
宇江佐真理さんの小説には気風の良い女性の語り口が度々登場します。
今回もお蝶と長屋のおかみさんとの喧嘩の場面で出て来ます。
「お父っつぁんは確かに悪事を働いた。
だからお裁きを受けたじゃないか。
皆んな、おれのお父っつぁんが引き廻された時、
見物したろ?
いい気味だと石でもついでにぶつけたかえ。」
「子どもは親を選べないのさ。
この先生だってそうさ。
先生は、こんな小汚い裏店住まいするようなお人じゃないんだよ。
てて親は旗本だよ。
それをびんしけんなどと子供の口調を真似て渾名で呼ぶなんざ
無礼千万の話だ。
ああ、そうとも。
おれのおっ母さんはどぶ店の女郎で、
お父っつぁんは盗賊だ。
あはっ、笑っちゃうよ全く。
だけど、それがおれのせいか?
はばかりながら、おれは生まれてからこの方、
人様の物に手をつけたことがないんだ」
宇江佐節と言うのでしょうか、
小気味よい啖呵が気持ち良い物語でした。
いつもありがとうございます

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