宇江佐 真理 「おはぐろとんぼ」

江戸下町の堀を舞台にした6編の物語。
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①ため息はつかない(薬研堀)
②裾継(油堀)
③おはぐろとんぼ(稲荷堀)
④日向雪(源兵衛堀)
⑤御厩河岸の向こう(夢堀)
⑥隠善資正の娘(八丁堀)
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再読です。
すっかり物語を忘れていたので
初読みのような感動がありました。
改めて読み返すと、
以前は、
③「おはぐろとんぼ」が好きでしたが、
今回はダントツで、
⑤「御厩河岸の向こう(夢堀)」が
ホロリ感動しました。
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歳が八つ離れた弟勇介と姉おゆりの
「生と死」の物語。
弟「勇助」が生まれて、姉のおゆりは
大変可愛がり母親より世話をします。
勇助が物心ついたある日、
「自分が生まれる前にどこにいたか覚えている」と
言い出します。
細かく述べる内容を確かめに「夢堀」へ行くと
勇助の言う通りでした。
不思議な勇助の存在に周りも驚くのでした・・・。
そんな勇助が八つの頃、
十六歳になった姉のおゆりに
魚善の武松との縁談が来ます。
おゆりはまだお嫁に行きたくないと断ろうとすると、
勇助が「心配いらない。頼りになる相手だ」
と勧め、相手の両親の事や
生まれて来る子供の事まで
細やかにおゆりに教えるのでした。
勇助は自分はのの様だから
先の事が見えるのだと言います。
しかし、おゆりはお嫁に行ったら勇助と
頻繁に会えなくなる事が寂しいと泣きます。
勇助は、「おいら、姉ちゃんが大好きだから、
次の世でもきょうだいになるよ。
その次の次の世でも。
だから、おいらに何があっても、泣いたり、
悲しんだりしなくていいよ。
その内にまた会えるから。
おいらの眼が動かなくなっても、
おいらがものを喋らなくなっても、
恐れてはいけないよ」
と言うのでした。
そして・・・
「おいら、十六で死ぬよ。
でもまだまだ先だよ。
姉ちゃんの倖せになるのを見届けてからだ。」
と言うのでした・・・
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勇助は自分が言った通り十六で亡くなります・・・
最後の看取りの晩に
勇助はおゆりに言います。
「仏壇に毎日ままを供えているかい?
時々なら忘れても構やしないよ。
忙しかったら墓参りも無理にすることはない。
肝腎なのは死んだ者の事を
時々思い出してやることさ。
姉ちゃん、今までありがとう・・・」
そう言ってふわりと笑った後、
勇助は亡くなりました・・・
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勇助は生まれて16年間しか生きませんでした。
その16年間の姉おゆりと
家族との倖せをしみじみ描いています。
おゆりは、子供を産み育てて行く過程で
折に触れて弟勇助を思い出します。
そしていつも見守ってくれている事を励みに
家族を大切にしながら前向きに生きて行くのでした。
読後しんみりとなり、
胸がいっぱいになる物語でした・・・
やっぱり宇江佐真理さんは良いなぁ~
いつもありがとうございます

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