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山本周五郎 「二粒の飴」

髪かざり (新潮文庫)髪かざり (新潮文庫)
(1987/09/30)
山本 周五郎

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「髪かざり」の中の一編。

貞代の娘の嫁入り前夜、
自分の幼い時に教えられた母から娘への
二粒の飴の話。

武家として生まれ生きて行くということ。
親の子を思う心情。

・・・・・・・・・・・・・・・
貞代が5歳・弟が1歳の時に、
父親が御役方の責任を取らされ切腹する。
母親と姉弟は、実家に頼らず
奥州相馬(福島)から江戸をめざし旅をする。


立つ日にはちらちらと雪が舞っていたくらいで、
寒さに向かう季節ではあり、
幼な子を二人つれての馴れぬ旅はどんなに
お辛いことだったか、
考えると今でも胸がつぶれるように思うばかりです・・・。

もう昏れがたで往来の人もなく、
田面(たのも)に張った薄氷が、
曇った黄昏のにぶい光を湛えて、
身にしみ徹るように寂しく寒ざむとしたけしきでした・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・
江戸に出た親子の暮らしぶりは、大層貧困でした。
近所に世話をしてくださる人々にも甘えることなく、
誰に恥じる事のなきよう母親は、
子供にも耐え忍ばせます。

貞代が10歳、弟が5歳の時に母親は亡くなります。
なくなる前に貞代と弟を枕許に呼び寄せ、
二粒の飴を与えます。


「世の母親というものは、
自分の口は詰めてもわが子には甘い物をやって、
よろこぶ顔が見たいものです。
それが母親としてのなによりの悦びなのです。

・・・けれども母さまはがまんした、
ついそこへ出そうとしながら、
じっと耐えました。
なぜがまんして来たのか、
それはあなた方が武士の子だからです・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・

「幼弱のうちに苦しさ辛さに耐え、
寒暑を凌ぐ(しのぐ)ちからを養わなければ、
成長してからお役に立つ者にはなれません。

父上があのようなご最期をあそばして、
あなた方お二人を女手に養育しなければならなくたった時、
母さまはなによりさきに、
甘く育ててはいけない、
ということを戒めにしました。

世の母親が誰しも持っている心の飴を、
そのとき母さまは棄てたのです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「これでもう安心だという時が来たら、
飴も菓子も、
好むほどの物を与えてやろう、
まだまだその時ではない、
そう自分に戒めて来たのですが、
・・・母さまはその時まで
あなた方をみてあげられなくなった、
もうお別れしなければならぬかも知れない、
武士の妻としてはふたしなみなことです、
恥ずかしいと思います。
けれど、あたりまえの母親としては、
・・・せめていちど、
あなた方お二人のよろこぶ顔が見たかった、
どうしてもがまんができなかったのです・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・
母親が亡くなると近所の人たちが
大層親切に後始末の世話をしてくれます。
そうして、納戸にあった鎧櫃(よろいびつ)を見つけます。
中には伝来の甲冑と金包みがありました。
骨身を削り亡くなった母親は、
どんなに苦しくとも、
決して重松家の物には手をつけなかった事が、
町の評判になり、藩にまで聞こえ御召し返しとなり、
重松家は再興します。
・・・・・・・・・・・・・・・・

「無いなかから子に飴を求めてやることはやさしい、
自分の口を詰めても遣れるものです。
そうしてよろこぶ子の顔を見ることが、
母親というもののなによりの満足です。

けれども手にある飴を遣らずにおくということは
むずかしいのですよ。
母親は誰しも心に飴を持っています、
そして絶えず、それを遣って子のよろこぶ顔を見たい、
という欲望にかられるものです。
もう余命がないとわかって、
せめていちどはとおぼしめしながら、
母上は自分の弱さを恥じていらしった。


二粒の飴といっしょに、
このお言葉を添えてあげます。
そしてあなたが、
あなたのお子にこれを伝えられる母になるよう、
祈っています。




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Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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