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乙川 優三郎 「冬の標(しるべ)」

冬の標 (文春文庫)冬の標 (文春文庫)
(2005/12)
乙川 優三郎

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幕末、小藩の大番頭の娘・明世は南画の自由な世界に魅せられるが、
世間の仕来たりは女子が絵を描くことを許さない。
結婚して夫と姑に仕えることを強いられた二十年を経て、
明世はついに自らの情熱を追う決心をする・・・。

封建の世に真の自立の道を歩もうとする一人の女性の、
凄まじい葛藤と成長を描いた感動長編。

・・・・・・・・・・・・・・・
「世間の常識からすれば、身勝手な悪い嫁でございます」

明世は自然に詫びる目を向けた。
馬島に嫁して二十年、自ら非を口にしたことはなかったが、
そでが折れると言葉はすらすらと出た。
彼女はそでのために何をしてやれるだろうかと思い、
何もしてこなかった自分に気付いた。

「わたくしもそういう目でしか見られませんでした、
それがこんな体になって見たくもない先が見えてくると、
いったい自分は何をして生きてきたのかと考えてしまいます、
嫁いでからというもの家にしがみつき、
夫にしがみついて、ほかのことを考えるゆとりすらありませんでした、
夫がこうしろと言えば何も疑わずに従い、
するなと言えば子供のように恐れて従ってきました、
その結果、夫がいなくなると自分という女もいなくなってしまい、
わけもなく恐ろしく感じたりもしました」

「それが女子というものかもしれません、
もしも絵の世界を知らなければ、
わたくしもそういう生き方しかできなかったでしょう」

そでの言葉に真情を感じるせいか、
明世は自分の言葉も苦にしなかった。
彼女はできるだけ素直にそでの気持ちに応えようとした。

「世の中の仕組みがそうなっていますし、
女子にできることは限られています、
ですが葦秋先生や光岡さまのように勇気をくださる殿方もいらっしゃいます。
わたくしはそういう人に恵まれ、教えられてきました。
よかったのか悪かったのか、
未だに迷うことばかりですが、絵を描くことで救われます」

「描きなさい、好きなだけ描くといいわ」
そでは言うと、庭を満たす陽の濃さに目を当てながら、
どこかで思い切らなければ月日は過ぎてゆくばかりだと付け加えた。



いつもありがとうございます。


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生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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