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北原 亞以子 「深川澪通り燈(ひ)ともし頃」


深川澪通り燈ともし頃 (講談社文庫)深川澪通り燈ともし頃 (講談社文庫)
(1997/09/12)
北原 亞以子

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江戸で5指に入る狂歌師となった政吉は、

野心のあまり落ちこぼれて行くが、

唯一救いの燈がともっていて・・・。

幼い頃親を失ったお若は、

腕のよい仕立屋になれたが、

1人の心細さがつのる時は、

まっすぐに深川澪通りに向って・・・。

辛い者、淋しい者に、無条件に手をさしのべる木戸番夫婦を描く

傑作時代長編。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「三ちゃん、お前、姉ちゃんが好きなんだろう?

吾兵衛さんは、その姉ちゃんが好きになった人なんだよ」

吾兵衛が、薄く目を開いた。

三次郎は、姉に会いに行っても、台所にすら上げてもらえなかったことを

思い出していたのかもしれない。

かたくなに押し黙って俯いていた。

「お前は姉ちゃんと甥っ子を、塩売りで食べさせているんだろう?

姉ちゃんの内職で食べさせてもらって、

姉ちゃんに子守歌をうたってもらっているわけじゃないんだろ?

それだけ一人前になった男が、

どうして姉ちゃんの好きな男に愛想のいい顔を向けてやれないんだよ」

だって・・・と、三次郎は言ったように見えた。

が、その言葉は口の中で消えて、

あとにつづく筈だった不平も、胸のうちで呟いているようだった。

お若は、三次郎と膝を突き合わせた。

「お前も来年は十七だろ?

姉ちゃん母子を養ったり、

おみやと所帯をもとうとしたり、

もう立派に一人前じゃないか。

一人前なら、もっと見栄をお張り。

姉ちゃんを吾兵衛さんにとられたのが口惜しくっても、

姉ちゃんに甘ったれられなくって淋しくっても、

そんなことは平気だって顔をおし。

一人前の男が、それくらいの見栄を張れなくってどうするんだよ」

言っているうちに、お若は、自分を叱っているような気がしてきた。




いつもありがとうございます
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生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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