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北原 亜以子 「深川澪通り木戸番小屋」

深川澪通り木戸番小屋 (講談社文庫)深川澪通り木戸番小屋 (講談社文庫)
(1993/09/03)
北原 亞以子

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第17回(1989年) 泉鏡花文学賞受賞


川沿いの澪通りの木戸番夫婦は、

人に言えない苦労の末に、深川に流れて来たと噂されている。

思い通りにならない暮らしに苦しむ人々は、

この2人を訪れて知恵を借り、生きる力を取りもどしてゆく。

傷つきながらも、まっとうに生きようとつとめる市井の男女を、

こまやかに暖かく描く、泉鏡花賞受賞の名作集。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1.深川澪通り木戸番小屋
2.両国橋から
3.坂道の冬
4.深川しぐれ
5.ともだち
6.名人かたぎ
7.梅雨の晴れ間
8.わすれもの

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5.ともだち

 
「おもんさん・・・」
おすまは、お捨のいることも忘れて駆け寄った。

「どうしたのさ。だらしないじゃないか」
知らぬ間に、昔馴染みに会ったような言葉で話しかけていて、
懐かしい人にようやくめぐり合えたような涙がこぼれてきた。

「勘弁しておくれよ」
おもんも、高い熱に息をはずませながら親しげに言った。

「風邪をこじらせちまってさ。ずいぶん待ってくれたんだってね」

「そうさ。来られないのなら、伜さんにでもことづけを頼みゃいいじゃないか。
そうしたら、すぐに見舞いに来られたのに」

「それも、勘弁しておくれよ」
おもんは弱々しく笑った。

「伜なんざいやしない。知らせようがなかったんだよ」

「一人ぽっちだったのかい、おもんさんも」
おすまは遠慮なく涙をこぼしながら、おもんの涙を拭った。
おもんの涙も際限がなかった。

「家ん中を見てごらんよ。何もありゃしないだろ。
着物をとっておいても、くれてやる娘はいない。
金足の簪だって、おっ母さんのかたみだと眺めてくれる者はいやしないよ。
そう考えると、何もかもばかばかしくなっちまってね。」

「わかるよ。わたしの家だって、空っぽだもの」

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いつもありがとうございます
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生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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