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宇江佐 真理 「今日を刻む時計・髪結い伊三次捕物余話」⑨

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江戸の大火で住み慣れた家を失ってから十年。
伊三次とお文は新たに女の子を授かっていた。
ささやかな幸せを
かみしめながら暮らすふたりの気がかりは、
絵師の修業のために家を離れた息子の伊与太と、
二十七にもなって独り身のままでいる不破龍之進の行く末。
龍之進は勤めにも身が入らず、
料理茶屋に入り浸っているという…。


・・・・・・・・・・・・・・・・

1.今日を刻む時計
 「不破の旦那は男でござんすよ。
奥様をずっとお慕いしていて、
奥様が吉原にいると聞くと矢も楯もたまらず
駈けつけたそうだ。
若旦那のお祖父様も偉かった。
何も言わず奥様の身請け料を工面なすったんだ。
奥様は旦那とお舅お姑さんの恩に報いるため、
一生懸命、同心の妻になろうと努められた。
これまで、若旦那は奥様に僅かでも吉原の匂いを
嗅いだことがありましたか?
奥様は武家の娘の気概を失っていなかったんだ。
わっちはとても奥様の真似なんてできない。
それなのに、若旦那は奥様のせいで縁談を断られたと
恨んでいるご様子。
若旦那がこれほど了簡の狭い男だとは思いませんでしたよ」



2.秋雨の余韻
 「似たようなお話があるのですよ。
縁談を断られた娘がおりまして、
父親はそれを不服として相手方へ談判に行き、
刃傷沙汰を起こしてしまいました。
その挙句、仰せつかっていた剣術道場指南役も下ろされ、
父親は抗議の意味で自害してしまったのです。
その娘も父親の後を追って自害致しました。
一家はそれにより離散する羽目となりました。」
「どなたのことをおっしゃっているのですか」
龍之進には心当たりがなかった。
「わたくしの実家のことです。
自害したのはわたくしの姉です」



3.過去という名のみぞれ雪
 「龍之進様は、ゆうが一番苦手な殿方に思えるの。
追い掛けたところで振り向いてもくれない人よ。
思いは膨らむ一方で、身も心もくたくたになりそう。
ゆうは、そういうのに堪えられないの」


・・・・・・・・・

みぞれ雪は人々の様々な思いを抱えて
降っているような気がした。
その思いとは、不破には皆、
過去を悔やむものばかりに感じられてならなかった。



4.春に候
 「手前ぇで言ってりゃ、世話ないよ。
伊与太、他人様の中で修業しているんだから、
意地を強く持っていなけりゃ踏むつけにされるよ。
それだけは言っておくよ。
困ったことが起きても、わっちとお父っつぁんは
すぐにお前の所へ駈けつけられないんだからね。
何でも一人でけりをつけるくせをつけなきゃ」



5.てけてけ
 「あたし、かけっこが得意だったんです。
大伝馬町にいた頃、近所の子供達と一緒に、
よく競争しました。
男の子と競争する時、女の子達は、
たけ、がんばれ、たけ、負けるなって応援するんです。
小平太は小さかったから、
その声がてけてけに聞こえたのでしょうね。
それからずっとあたしのことをてけてけと呼んで、
姉ちゃんとは呼んでくれなかったんです。」



6.我らが胸の鼓動
 「拙者、徳江さんとひと廻りも年が離れておりますゆえ、
当初、徳江さんを妻にすることは考えておりませんでした。
しかし、今は真剣にそう望んでおります。
お嫌でなければ拙者の申し出を受けていただきたい。
仲人を介するのどうのは、
拙者の性に合いませぬ。
これから拙者の家に参りましょう。
母上がうまくとり計らって下さいます。
いかがですかな。」
龍之進は照れも手伝って慇懃な口調になる。



いつもありがとうございます
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Author:cn7145
生れも育ちも仙台。外見も性格もとても地味。物があふれているのが苦手。食べ物の好き嫌いほぼ無し。本と猫好き。好きな言葉「喫茶喫飯」。

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